サークルカルチャー(CC)
PLACEText: Paul Snowden
今年もまた、ベルリンの街がファッション一色になる週末がやってきた。国内外のストリートファッションを紹介する、ファッション・フェア、ブレッド&バターで、大規模な工場を会場に開催されたり、そのサテライトイベントが、旧東ベルリンの枢密院があった国家評議会ビルで開催されたりと、盛りだくさんな内容だ。
このショーは、ベルリンで活動する若手のファッションデザイナーにとっては、彼らの作品を発表するには最適な場所。見応えも満点だが、中には実際に着用するには向いていない作品もちらほら。また今回のブレッド&バターでは、ナイキのショールームであるスピリットルームのオープニングも開催。これは、ベルリンのネットワーク・サークルカルチャー(CC)のコンセプトによって運営されており、このショールームのデザインは、ダブル・スタンダードのクリス・リーバーガーが担当した。
興味深かったのは、もちろんその表現方法。個人、企業、ブランドは、何か他とは違うことをするには何を今すべきか?というアイディアが隠された表現だ。
クリス・リーバーガーは、おそらくドイツのスーパースター的なデザイナーだと僕個人としては思っている。すでにこの業界での経験は15年。そして彼の経歴ももちろん素晴らしいものだ。彼のデザイン会社ダブル・スタンダードを彼自身は、アイディアを実行するためのオフィスととらえている。デザインのみならず、映像制作も94年から手掛けており、97年からは自身のバンドでもありレコードレーベルでもある「ペルロン」をスタートさせた。美術館、展覧会用デザイン、ビデオ、スクリーンデザインといった文化の中で見出せる興味に対する彼なりの筋の通った発展をすることができる会社だ。ロンドンからベルリンに移住したのが2年前。ベルリンの文化のテイストを気に入っての移住だった。
サークルカルチャー(CC)はその名の通り、カルチャー専門の団体。以前から僕も何度も言っている通り、この街にはひとつしか文化はない。大都市に住むということは、つまりギブ・アンド・テイクをしなければいけないということ。そして広くて、スマートで、シックな「スピリットルーム」は、本当にスピリットに満ちた空間なのだ。サークルカルチャーがコンセプト作りを担当し、ナイキの限定商品を扱う空間を生み出す。ひとつの空間でありながらも、新しいスタイル、そしてベルリンの若手デザイナーにとっては重要なプラットフォームでもあるこのショップ。クリスはサークルカルチャーとの共同デザインも担当し、スピリットルームのインテリアデザインにも携わった。ロッカールームを彷佛とさせる空間。木製のパネルのようなものが多く使われており、デザインとファッションが絶妙にミックスされている。
一方、このサークルカルチャーをプレスワーク、コンサルティング、ワークショップ、ブランドのコンセプト作りをする若い企業、と表現するのはジョアン。それは、『サークルカルチャーは成長し、アイディアを発展させる会社。つまり、アイディア・エージンシーなのです。』という会社概要からも伺える。
2人との対談は、スピリットルームにて行われたのだが、その時の話で一番おもしろかったのが、僕達はベルリンにいる。それはつまり、僕達は発展という動きの一部であり、ベルリンが持つ可能性の一つなのだということだ。
発展に一時的でも携わる、あるいは毎日をそれに費やしていると、東西統合の後では、ベルリンはまだまだ若い街で、結果はすごいものだったりするのに、今僕達の手の中にあるチャンスがそれほどでもないと思ってしまったりしていることにさえ気付けないこともあるのだ。
僕達が今まで目撃し、それが無くなってしまってもなんとも思わないようなベルリンの熱狂的な動きは、もしかしたら、僕ら自身を浄化するための必要なプロセスだったのかもしれない。ベルリンはまさに、カルチャーとクリエイティビティが集まった街。同時にタフでもあり、ビジネスにだって強い。ベルリンを企業やブランドに紹介し、ベルリンに今あるシーンや若者文化を理解してもらうのもサークルカルチャーの仕事。この街はまさに、描かれるのを待ちわびている真っ白な一枚の紙なのだ。
大都市の中では、ビックネームなどは何の役にも立たないということを、僕らはみんな気付いている。街だけではなく、住んでいる人達も、これが彼らが求めているものではないということを知ったのだ。それよりも、ベルリンという街を深く理解する方が重要なのではないだろうか。実際に街まで脚を運び、何かクリエイティブなイベントに参加する。すると、ベルリンという街、そして街がどのように動いているのかが分かるはずだ。
デザインは、誰かが感じたもの、そして誰かが行ったものに気付くためのコミュニケーションの手段である、と言ったのはクリス。良いデザインを構成しているのは、作品に向かう姿勢と、誠実さである。そして、知的で意味を見い出すことができる空間を作り上げるのは、デザイナーとしての使命なのである。興味をもたれるものでなければならないのがデザイン。そしてその代わりに、リアクションを必要ともする。これこそまさにギブ・アンド・テイク。そしてまた、それを子供達の為に行うとなるとなお素晴らしいではないか。
インタラクションとコミュニケーション。これについての好例を、昨年行われたサッカーの試合で見い出すことができる。サブグランドを作るというのは、ナイキが持っていたコンセプト。子供達が遊んだりスポーツを楽しんだりするグランドに、巨大なスクリーンを設置する、というものだ。街にサッカーがあり、近隣のチーム同士で戦う。子供達もサッカーをする。これこそ、そのブランドにパワーがあるという例のひとつであり、そのパワーが地域に貢献しているという証拠だ。
サークルカルチャーが今後目指すものは、ベルリンでのネットワークを拡張すること。地域に向かって質問を投げかけ、彼らのニーズに応え、トレンドを作る。サークルカルチャーにとっては、ワークショップが重要な位置を占めることになるだろう。意見の交換、問題の解決、そしてブランド、文化の理解などに時間が費やされるのだ。ギブ・アンド・テイク。これこそ、この大都市を表したものだ。
CIRCLECULTURE Cc: + Cc:room
住所:11 Gipsstrasse, 10119 Berlin
TEL:+49 (0)30 2758 1780
https://www.circleculture.com
Text: Paul Snowden
Translation: Sachiko Kurashina
Photos: Paul Snowden