東京デザイナーズ・ブロック 2002

HAPPENINGText: Sachiko Kurashina

道に迷っても辿り着けた甲斐があった、と心から思えたのは、恵比寿の閑静な住宅街にあるトランス・ギャラリーで行われていた「リチャード・ハッテン展」。明るく気さくなオーナーが印象的だったこのギャラリーの一階は、エントランスがすべて取りはずされており、太陽の光と共に、気持ちいい程の開放感にあふれていた。地下にもギャラリースペースがあり、ゆっくりと自分のペースで作品を楽しむ事ができた。


Richard Hutten “Stool Pants”

アートとファッションが一体化した作品「スツールパンツ」は、ハッテンの新作。この作品は、スイスの酪農作業で使用されるベルト付き腰掛けスツールが原案だ。御覧の通り、ジーンズにスツールがくっついているのだが、スツールの太い部分は発砲スチロールできているので、見た目よりもずっと軽い。凸起部分の素材は木だ。凸起の部分、つまり椅子でいうと脚の部分がひとつだけなので、実際に座る前はバランスを取るのが難しいかと思ったが、こちらも予想以上の安定感。まるでそれが体の一部のように、簡単にどこでも座る事ができた。地下のスペースでは、映像作家の朝倉充展氏制作による、東京という風景の中のスツールパンツをとらえた映像も上映されていた。


Richard Hutten Exhibition View

その他、ハッテン氏による家具も多数見ることができたが、地下ギャラリーにあった作品は、木そのものの色合いが活かされていたり、パステルカラーなどが使われており、全体的にとても優しい印象。基本形はシンプルでありながらも、例えば背もたれが連なっていたり、違う方向に付けられていたり、十字架を囲むように椅子が設置されていたりなど、人それぞれの方法で自由に楽しめる作品が多かった。


Richard Hutten Exhibition View

一方、一階のギャラリースペースに展示されていた作品は、エネルギー溢れる原色が目立っていたが、明るい空間にはかえって原色の方が映えており、見てるだけでも楽しくなる。家具だけではなく、小さな子供用のカップ、卵ケースを思わせるフルーツトレイなども柔らかな曲線で作られており、ハッテン氏の優しさが感じられものが多かった。

「美術館に行くぞ!」的な肩ひじをはって作品を見に行くよりも、いつもの街角、いつもの店にさりげなくアートがあり、それを楽しめるのが「東京デザイナーズブロック」でしかできない醍醐味だと思う。このイベントが始まった当初と比べると、一ケ所に多くの作品が集まっていたりして、その長所が残念ながらもややゆるまってしまっているのではないか、という気がした。目的地を決めないで彷徨うのは、時に不安を感じるが、道ばたからひょいっと顔を出しているアートとの偶然的な出会いを期待しながら歩みをすすめるのも、ちょっと忘れかけていた、そしてこれからはずっと覚えておきたいデザイナーズブロックの楽しみ方ではないだろうか。

東京デザイナーズブロック 2002
会期:2002年10月10日(木)~14日(月)
会場:新宿、青山、西麻布、渋谷、代官山、恵比寿エリア
https://www.tokyodesignersblock.com

Text: Sachiko Kurashina
Photos: Sachiko Kurashina

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