ベルリンの個性的なブックショップ
PLACEText: Ray Washio
ドイツのアートを語る上で、出版産業との関わりは避けては通れない。ゲシュタルテンに始まり、シュタイデル、タッシェンなどこれら格式高い出版社が世に送り出してきたアートブックの影響力は計り知れない。ドイツを拠点にするアーティストたちにとって国内の出版社から作品集を出すことは一種のステータスになっている。
© Taschen Store Berlin
当然ながらベルリンに行けば、タッシェンやシュテンベルグ・プレスなど出版社の直営店に行くことができる。このような店舗はオンラインでは取り扱いの終わってしまった希少な在庫を定価で扱っていたりするため、定価ながらもお得に買い物することができる。
一方で、ベルリンには古くなってしまった本を大幅にディスカウントする店も多くある。ベルリンで一番大きな現代アートの美術館であるハンブルガー・バーンホフ中にも支店を構えるウォルター・ケーニッヒはその一つだ。出版社でもあるこの店は、市内でも随一の品揃えを誇りながら、ディスカウントコーナーが設けられ、売れ残った本は半額以下で売りさばかれる。ビュッヒャーボーゲーンのような小説などを扱う総合書店であっても、ビルドバンド・ベルリンのような個人経営の小さな書店であっても同じような光景を見ることができる。新品のアートブックが叩き売りされているさまはなんとも新鮮でおもしろい。
© Pro QM. Photo: Katja Eydel
雑誌に特化した書店ということであれば、ドゥ・ユー・リード・ミー ?!に行けばいい。写真美術館であるツェー/オーベルリン内のブックショップとも提携しているため、写真集などのアートブックの品揃えも豊富だ。ここに行けば、ヨーロッパはもちろんアメリカや日本など世界中の多様な雑誌を探すことができる。他にもプロ・キューエムやソーダ・ブックスなどベルリンにはおしゃれな書店が多い。
© 25 Books
ドイツはこれまで著名な写真家を多く輩出してきた。そのため、写真集においては格別のこだわりがあるようで、25ブックスは店主がこだわって仕入れた作品が所狭しと並ぶなんともドイツらしい書店である。ジャンルにこそ偏りはあるものの、新しい出会いを探している人にとってはうってつけの場所だ。また、ビュッヒャーハレのようなアンティークな書店があるのもベルリンの魅力で、ここに行けば70年代のインデペンデントな雑誌や本など格安に手に入れることができる。今まで見たことのないような歴史に埋もれたムーブメントを知ることができるという意味で、図書館のようなこの書店の存在はますます重要になってきているようだ。
© Motto Berlin
またベルリンの書店を考えるときに忘れてはならないのが、ジン(Zine)の存在だ。これは地理的な要因もあってか、オランダやスイスからの影響も見ることができる。デザイン的なもの多く、写真を多く見せるのが特徴だ。ノイロティアン・ショップ・アンド・ギャラリーなどのギャラリー併設型の書店でも見られるが、この界隈において最も熱心なのは何と言ってもモト・ベルリンであろう。ナイトクラブなど若者文化がひしめくクロイツベルク近郊にあり、度々イベントが開かれるこの書店は、ベルリンの文化的混沌の中で、書店を超越した文化的な潮流を作ってきた。無名の新人から、大御所作家まで幅広く取り扱うその姿勢はベルリンの表現を何か象徴しているようにすら感じてしまう。
メインも、サブもどこか生き生きとしている街、ベルリン。ここでは昨今のSNS時代の陰りを見ることがない。店まで足を運び、出会いを楽しむ。そんな書店の醍醐味をこの街は気づかせてくれる。
Text: Ray Washio