第18回 文化庁メディア芸術祭

HAPPENINGText: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo

アニメーション部門の大賞に選ばれたのはアンナ・ブダノヴァが心の傷に苦しむ少女を描く「The Wound」。作品は主人公の少女が空想の中で描いた、毛むくじゃらの生き物(=ウーンド)が心の傷の権化として現れ、ともに成長していく様子を描く。

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Anna BUDANOVA「The Wound」展示風景 

作品で描かれた線の躍動感や様々に持ち入られている効果音は鑑賞者の心を動かし、ウーンドの大きさの変化によって、主人公の心情がダイレクトに伝わって来る。ウーンドと主人公が食卓を挟んで座るシーンがあるが、ウーンドの大きさは今まで受け止めてきた心の傷の大きさであり、その大きさこそが自分の人生であると受け入れて生きているシーンのように見えて、とても心が引き寄せられる作品だった。

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高橋渉「映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」展示風景

アニメーション部門で優秀賞を受賞した高橋渉の、映画クレヨンしんちゃん「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」は子どもだけでなく、大人も楽しめ、心打たれる良質なアニメーション作品に仕上がっている。父権社会や、家庭内の父親のアイデンティティーといった、普遍的で、ともすればシリアスに収束してしまいそうなテーマを扱いながらも、当アニメーションシリーズらしいギャグが随所に挟み込まれ、決してシリアスになり過ぎず、笑えて、そして最後には感動できる作品になっている。そのバランスが素晴らしい。

ストーリーのみならずアニメーション特有の、見ていて心地の良いキャラクターの動きやフィクショナルな描写もこの作品の魅力だ。特に終盤の、湯浅政明によってデザイン、作画されたロボット・バトルシーンは圧巻。思わず吹き出してしまいそうな一見ナンセンスな設定であるが、独特の線のタッチと色彩により、画面に釘付けになってしまう。アニメーションにおける、ロボット・バトルシーンの新境地と言っても過言ではないだろう。クレヨンしんちゃんは、もう何十年も続いてきたアニメシリーズでありながら、未だにこうして画期的な試みを積極的に取り入れていこうとする、作り手達の熱量の高さに感動を覚えた。

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