瀬戸内国際芸術祭 2010

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

改めて船に乗り次は、男木島、女木島のふたつの島を探訪する。男女というジェンダーの揃いがつくように近く隣接したふたつの小さな島だ。

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高松から女木島に向かうフェリー。並走し、水面を開く巨大な「ファスナー」が見えてきた。船の航跡がまるでファスナーが布を開くかの様に見えた鈴木康広が手掛けた「ファスナーの船」。そのユーモラスな姿に旅情が掻き立てられる。

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この島には、直島をアートフィールドに変え、豊島を同じく変えようとしている、この芸術祭の総合プロデューサーである、福武總一郎の姓を冠した、著名ギャラリーによるポップアップ「福武ハウス」が休校中の小学校の校舎を用いてオープンしている。福武氏の持つ現代美術収集のネットワークを反映するかのような世界各地の有力ギャラリーがそれぞれの扱い作家から厳選した作品は、今の現代美術のシーンに人々がいきなり対峙し、感慨することができる場となっていた。

そんなポップアップな場にあって、島の学校であることを意識し、心に残ったのは小山登美夫ギャラリーが展開したアニメーション作家の辻直之の「風の精」。辻の素描による寓話的なアニメーションの世界が映し出される教室に、子どもの頃、学校で感じていたであろう妄想のひとときに思いを馳せる空気がそこにあった。

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妄想といえば、ギャラリー小柳による 杉本博司の作品は、杉本の本来の仕事である写真ではなく、小学校に遺された様々なものを用いた「とんち」を、様々な物体にして散りばめられたユーモラスなもの。ギャラリーによる展示でありながら、直島などに展開される写真の作品がある一方での、ある種のサービスともいうべき、いたずら心溢れる、そこにしか存在しえない作品である。

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今になって気になった映像作品もある。中国広州のヴァイタミン・クリエイティヴスペースが提供するジュン・ヤンによる「ファントムアイランド」だ。この台湾の作家は、ハリボテの島をつくり、台湾から中国と台湾、日本との間の公海上にそれを浮かべるというビデオ作品。島が突如存在すると理解することによって生まれるアイデンティティ。今まさに進行中の尖閣諸島を巡る思いを、誰もが持つであろうアイデンティティともに意識化し、揺さぶらせる作品である。

女木島から男木島まで向かうフェリーの待ち時間、港の隣の海水浴場でシャワーを借りて、軽く泳ぐ。夏が蒸し暑い日本の中にあって、乾燥地帯である瀬戸内の島々。泳いでもすぐに乾いて気持ちがいい。美術を鑑賞するだけでなく、風土の恵みを軽く摂取するような濃厚な旅が、島と島とを結ぶ間に広がって行く。

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