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田名網敬一 X 森永博志「幻覚より奇なり」

THINGSText: Yu Murooka

田名網敬一」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。サイケデリック、ポップ、実験映画、金魚、螺旋、プレイボーイ、原一司、山川惣治、アンディ・ウォーホル。少し考えただけでも、これだけ思い浮かぶ。しかし、「一体彼は日頃、何を考えているのか?」という質問に対してはどうだろうか。「田名網敬一の頭の中はどうなっているんだろう」と気になりませんか?

田名網敬一 x 森永博志「幻覚より奇なり」

そんな田名網敬一の、頭の中までもを露にした一冊が出版された。田名網敬一の初の伝記「幻覚より奇なり」(リトルモア)である。著者は、田名網敬一と森永博志。本書には、田名網一の幼少期の戦争体験から、絵画や映画に目覚めた少年期、様々な出会いを繰り返した青年期から現在に至るまでが書かれてある。と言ったら、ただの伝記にしか聞こえないだろうか。でも、これ、ただの伝記ではない。

『連日の観察を続けているうちに、少女たちが、渋谷という巨大な水槽で遊泳する金魚の群れに見えてきたのである。』『日本刀を持った若い男が、客席からいきなり舞台に駆けあがって、バサーッてスクリーンを切り裂いた。上映中のスクリーンだよ。』『山型に盛られた肉塊からはまだ多量の血液が流れ出していて、怪しげな宗教の儀式を行う祭壇にみえた。』『ヤクザ映画で見たシーンそのまんま、このオトシマエは指を詰めてもらおう、となっちゃった。』『やがて激しい動きが止み、スクリーンの端にあったかすかな羽の震えも止まった。と同時に、羽の焼け焦げる物凄い異臭が部屋中に立ち込めた。』
これらは、本書のほんの一部なのだが、全てが、田名網敬一の周りで起こった出来事、自身の記憶なのである。まさに「幻覚より奇なり」というエピソードの連続である。また、それを淡々と語る田名網敬一と森永博志の対話も面白い。

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写真:三浦憲治

余談だが、以前このお2人とリッツ・カールトンのラウンジでご一緒した際、「何てかっこ良いんだ!」と感じた記憶がある。『HORSE’S NECKって知ってる?とても美味しいから飲んでごらんよ』から始まり、2人の遊びや、食の話。そして『女はね、男の目を気にしている様じゃ駄目だよ。自由でいて良いんだよ』という様な恋愛(というよりも人生の)アドバイスから、更には『男に騙されない様にしなさいね。結婚相手が決まったら、僕、見てあげるから』という様なありがたいお言葉まで(はい、見てもらいます!!)、「こんな大人の男になりたい・・・!」といつも思う、いわば私の目標の2人である。この2人が書いた本、面白いはずである。本書では、そんな2人の大人の粋な遊び方も楽しむことができる。

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写真:三浦憲治

『室岡さん。仕事中はおやつの時間あるの?おやつ休憩しなきゃ駄目だよ。僕の所なんて毎日あるからね』と目の前の田名網敬一は話す。その平和な姿からは想像もできないエピソードが、本書には沢山書かれてあった。
「どんなに小さな、どんなに些細なことからでも、巨大な宇宙を想像できる」と語る田名網。彼の頭の中はまさに宇宙である。本書は、彼の中で宇宙遊泳しているかのような体験ができる一冊である。(文中敬称略)

田名網敬一 x 森永博志「幻覚より奇なり」

田名網敬一 x 森永博志「幻覚より奇なり」
発売:2010年10月13日
仕様:A5判/470ページ/並製
価格:2,940円(税込)
ISBN:978-4-89815-296-6
発行:リトルモア
https://www.littlemore.co.jp

Text: Yu Murooka

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