
アラブ首長国連邦の首都アブダビは、サーディヤット島(アラビア語で“夢の島”の意味)プロジェクトの完成に駒を一つ進めた。世界金融恐慌の痛手を全く受けていないかとも思われるアブダビは、5000人収容できる宿泊施設の完成を発表した。早速そこに泊ってこの大プロジェクトを見てみたいと思われた方、ちょっとお待ち下さい。この宿泊施設は観光客向けのものではなく、この夢の大プロジェクトに携わる建設労働者の寮なのだ。その労働者収容施設の規模は、来年には2万人収容可とするというから、その数に先ず圧倒される。
そんな発表がされたのもつかの間、今度はフランス大統領サルコジが5月26日にアブダビを訪れ、アブダビ皇太子シェイク・モハメド・ビン・ザイード ・アルナフヤンとこの砂漠のルーブルの2013年の完成に向けたプロジェクト開始記念式典に出席した。その式典にはアブダビ・ルーブルをデザインした建築家ジャン・ヌーベルの姿もあった。
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このプロジェクトの歴史は2007年3月に遡る。フランスとアブダビはこの2万6000m2ものルーブル・アブダビをサーディアット島巨大プロジェクトの一つとして加えると同意した。その今までに例を見ない未来的な建築デザインに加え、このクラッシックアートをテーマとする新ルーブル美術館のビジネスにも注目が集まった。30年間という「ルーブル」ブランドの使用権と本家ルーブル美術館からの美術品の借入れに、アブダビは約480億円フランスに支払う事で同意したからだ。
これに対し、ルーブル美術館をフランチャイズしている、この石油で豊かなアブダビに“支店”を作るのか、はたまたフランスは国の遺産を売り飛ばそうとしている、などと議論は起こった。フランスでは議論は更に勢いを増し、この2国間での桁外れの額の合意に反対し「美術館は売り物ではない」と主張する美術館専門員、考古学者や美術歴史学者など4650名(合計5100名)による署名活動とまで発展した。
この署名運動が影響してかどうか定かではないが、新ルーブル美術館への次なるステップは2008年1月に取られた。パリでルーブル美術館に加え、オルセー美術館やポンピドゥーセンター他多くの美術館を管理するアジャンス・フランス・ミュゼウム(AFM)がこの新ルーブル美術館の管理も行う事に同意した。
AFMチーフ・エギュゼクティブ・オフィサーのブルーノ・マクアは『新しいプロジェクトには、議論なり反応が起こるのは当然の事。』彼はルーブル・アブダビプロジェクトを大がかりなものだとし、フランスで起こっている議論に対してはむしろ前向きだ。マクアは『美術館が完成してから批判が起こるならそれなりの評価を受けたい。完成後であれば、フランス人または他国のルーブルアブダビに対する評価は協力的で熱狂的なものになると信じているからだ。』と語る。
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またマクアは、ルーブル・アブダビがルーブルのただの支店的なものになるという心配を真っ向から否定する。『ルーブル・アブダビは独特な美術館になる。』と言う。彼はこのプロジェクトは革新的なものだとする。ルーブル・アブダビはクラッシックアート美術館となるが、彼のこの美術館の定義はそれに留まらない。『ルーブル・アブダビは、最新の技術を駆使し、それぞれの異なる地域を結び、古代から現代まで異なる時代に橋をかけるような“ユニバーサル美術館”となる。』と語る。また、AFMのボードチェアマン兼ルーブル美術館経営責任者のマーク・ラドレ・ドゥ・ラシェリエルは、この約108億円のプロジェクトを「これまでに例を見ない挑戦だ」と断言する。
彼らの主な挑戦は『東と西の文化を繋ぐ:歴史的そして地理的境界線を越える事』だとラシェリエル氏は語る。ルーブル・アブダビはプリツカー賞受賞フランス人建築家ジャン・ヌーべルによってデザインされた。世界的著名な建築家ヌーベルは、20年前にデザインしたパリのアラブ世界研究所で東と西を繋ぐ大きな貢献を既に果たしている。
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ヌーベルの中東での新たな挑戦はというと、キュポラ(ドーム)をデザインコンセプトに選んだ事。キュポラはアラブ建築の典型的スタイルであり、またすべての文明に見られる一般的な形だからと同氏は説明する。 そのドームは“半透明の屋根と不規則に折り重なる網目模様の隙間から差し込む日光を生かすアラビア建築に見られる素晴らしい仕組み”が使われている。「この網目模様のドームは文化の世界的リンクも表す」とヌーベルは語る。
このドームが建てられるサーディヤット島は、砂漠と海が隣り合わせというあまり他に例を見ない地形。海岸線にはサンゴ礁と、水面に浮く庭園に囲まれ、この美術館はまるで水面を漂っているようだ。
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キュポラは一見、巨大な一枚屋根にも見える。『ルーブルアブダビは4つの基本元素(地・火・水・風)の観察に影響を受けている。』とヌーベルは説明する。二層構造の180メートルのドームは「光と影、静寂さと光の反射を体験する世界」を造り出すため、複雑な構造がなされている。そんなヌーベルの新ルーブルのコンセプトは“ミクロシティー(微細な都市)”。『このミクロシティーの中は、訪れた来館者が別世界に入ったと感じられるようなミクロ(微)気候でなくてはならない。』とヌーベルは語る。彼はそんな平静でいて複雑な構造を持つ新ルーブルを「大きなパラソルで守られた海に浮かぶ小さな島の数々」と表現する。彼は、「人間は温度の変化に弱い、それはアートも同じ」とする。
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このミクロシティー美術館は、古典的美術作品や文化遺物と美術館が位置するイスラム圏の文化を共鳴させる。 それにはヌーベルの、単なるそっけない直訳っぽくなったり、ありきたりでトラブルを呼ぶような解釈ではなく、その国、歴史、地理に溶け込みたいというコンセプトが根底にある。
アラブ首長国連邦大統領兼アブダビ首長のシェーク・カリファ・ビン・ザイード・アル・ナフヤンの描くアブダビの未来像は「世界の文化資産」で「異文化経験や交流の拠点」となる事。単なるクラッシックアート美術館の設立に留まらない、このアートプロジェクトへの二国間の協力が合意された事は、大統領の未来像への土台を創ったといえる。友好的な雰囲気で進められたプロジェクト着工式典を終え、アブダビを世界文化の交流点としたいというルーブルアブダビにかける望みをかなえる歴史的第一歩を刻んだ。
この注目が集まるルーブルアブダビ、2013年の完成まで待てなければ、現在アブダビ、エミレーツ・パレスで開かれている「Talking Art(アートを語る):ルーブルアブダビ」と題する完成に先駆けた展示会に足を運んでみるのはどうだろうか。ヌーベルのミクロシティへのバーチャルツアー他、開館を前にパリルーブル美術館本家より“出張中”の29作品を先取りして鑑賞できる。このイベントは2009年7月2日まで。入場無料。
Text: Mamiko Kawakami