ユトレヒト

PLACEText: Wakana Kawahito

『何で本屋なんか始めたんだろうね〜。』屈託のない笑顔を浮かべながら話すその口調はゆるりとしていて、こちらも彼のペースに引き込まれていく。ユトレヒトは江口宏志さんがオーナーを務める東京、中目黒にあるアポイントメント制の本屋さんだ。よくある普通のマンションの一角の扉を開けると、小さな一室があり、部屋をぐるりと囲んだ本棚には本がびっしりと並べられている。

ユトレヒト

ユトレヒトは『接客のある本屋』。一冊一冊どこで仕入れたのか、どんな本なのか、について詳しく説明をしてくれるので、それぞれの本に対する思い入れも深まる。また、探している本を事前に伝えるとそれに合わせていくつかセレクトしておいてくれるところも他の本屋にはない、アポイント制ならではの細やかなサービス。最近は海外、特に香港、韓国、中国などのアジアからのお客さんが多いそう。

『自分が欲しいものを仕入れている』という本のセレクションが、江口さんの審美眼の高さを表している。全部で1000〜2000冊あるうち、大部分はアート系の本だが、その他にも絵本や小説なんかも置いている。また、ディック・ブルーナーが好きで、彼の故郷であるオランダの都市ユトレヒトを店の名前にしたことからも伺えるようにオランダのアートやデザインの本の品揃えには定評がある。

ユトレヒト

『小さいけれども、面白い本を作っている出版社や個人を積極的に紹介しようと考えている』と江口さんが言うように、キャビネットケースには国内外の小さなパブリッシャーが出版している、本とも呼べないような小さな冊子がぎっしりと並べられている。

ユトレヒト

『最近オススメなのは「夜灯集」(短歌=石川美南、写真=橋目侑季、出版=山羊の木)。短歌と写真で構成されている作品集とでもいうのかな。』

ユトレヒト

『あとは「鳥01」(著=華雪、出版=STUDIO LOUP)もいい。手書きの文章と写真のコンビネーションに惹かれます』。

有名無名を問わず、様々な本があり、選ぶのに迷ってしまう。そこで、本選びのプロである、江口さんに聞いてみた。江口さんの好きな本ベスト3は?

1. ブレーメンの音楽隊などで有名なハンス・フィッシャーのドローイング集「Skizzen buch」
2. ルナ・トルケストッティアの全て絵だけで構成されている絵本「Short Long Story」
3. フレッド・メイヤー・ヘニーによる木の人形の写真集「Michelangeli Visto Da Benedetto Burli」

さらには、本の発売だけではなく、出版も行っている。手がけているのは、まだ若手のイラストレーターやカメラマンなどの作品集が多い。みんなにまだ知られていない、日本の面白い人を紹介し続けている。
これからも、規模は小さいが素晴らしい本、日本には入ってこない海外の良書を届け続けてほしい。

ユトレヒト
営業時間:12:00〜20:00(月曜日定休)
住所:東京都港区南青山5-3-8 パレスミユキ 2F
TEL:03-6427-4041(UTRECHT/NOW IDeA)
https://www.utrecht.jp

Text: Wakana Kawahito
Photos: Wakana Kawahito

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE