パラダイス・ロウ

PLACE

イーストロンドンのアートシーンは、もうずいぶん前からブリックレーンだけに留まらない。日曜日のストリートマーケットだって、ブリックレーンからもっと東に向けて伸びるチェシャストリートへ進出しているのだから、目鼻の効くギャラリストやアートフリークだって黙っているはずがない。黄色のショップバッグがまぶしい巨大ヴィンテージショップ「ビヨンドレトロ」に、ふらふらと吸い込まれたくなる気持ちをぐっと抑えて左へ折れる。目の前に見えてくるレンガ色の建物が目指すギャラリー、それが「パラダイス・ロウ」である。

パラダイス・ロウ


とはいえ「本当にここが?」と不安になってしまうのは、さびれた公営団地のような階段をぐるぐる上って行かなければならないから。けれど上った先には、意外にも自然光のたっぷりと差し込む広々としたアートスペースへ出る。元はチャーチホールだったというその空間は、もしかしたらローカルな老夫婦たちが社交ダンスパーティーにでも使っていたのだろうかと想像がふくらむ。それほどに、落ち着いた木のフロアの上には清々しい光が満ちている。

パラダイス・ロウ

さて、ここでもう一つ不安要素がある。あなたが立っているであろうその場所、そのポイントは実はパラダイス・ロウではないのですよ!どうしてでしょう?答えは、とりたてて完全なしきりがある訳でもない一続きの大広間であるこの空間、実のところ入って手前側が「T1+2ギャラリー」、奥が「パラダイス・ロウ」と二つのギャラリーの所有になっているから。「ちょっと複雑でしょう?」と前述のギャラリーマネージャー、リサも苦笑い。かつてはパートナーシップを組んで操業していたものの、現在では完全に独立してそれぞれのエキシビジョンを展開している。とはいえ、そんなあれこれも、あまりにぽかんと広い空間に存在する新生アーティストたちの手仕事に触れたとたんにすっかり忘れ去られてしまうものなのだけれど。

パラダイス・ロウ

手前のギャラリーでは、ゴッドフリード・ドンカーによる「ステイト・オブ・ザ・ユニオン」展が開催中。3000部ものファイナンシャル・タイムズをカットしたり折ったり重ね足りの末、国旗に見立てることに成功している。巨大なアメリカ、イギリスと対峙するのは、イラクやイラン、イスラエルといった中東の国旗。ファイナンシャルタイムズがその名の通り、ファンドやインベストなどたっぷりお金のにおいがする新聞であること、そしてこの国旗のラインナップ。それに加えて、国旗から色というキャラクターを取った時、そこにはいったい何が残されているのか?政治と世界情勢に、色あせてゆく新聞紙の前でゆっくりと考えをめぐらせてみよう。

パラダイス・ロウ

うってかわってパラダイス・ロウがプレゼントするのは、バリー・レイゲイトの初ロンドン個展。絵画、彫刻、写真と様々な媒体で表現する新進気鋭のアーティストである。ディズニーキャラクター、バンビやピノキオ、そしてウサギのイラストなどかわいらしいモチーフを使いながら、暴力的で毒の強い作品が占める。特にライトセーバーを思わせる蛍光管を、性器に見立てた「I’m not a Follower, I’m a Leader.」はコミカルなルックスとは裏腹に、陰険な雰囲気が漂う。とはいえ、きっとここロンドンの皮肉屋で美しいもののお嫌いなコレクターたちには、これくらい怒りに満ちた作品が受けるのかもしれない。

Paradise Row
住所:St Matthew’s Hall, 2 Wood Close, London, E2 6ET
TEL:44(0) 20 7613 3311
営業時間:水〜日 12:00〜18:00
info@paradiserow.com
http://www.paradiserow.com

Text and Photos: Sayaka Hirakawa

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