奥秀太郎「カインの末裔」

THINGSText: Shinichi Ishikawa

ATTIC(アティック)は今年4月札幌にオープンしたイベント・スペース。椅子なら25〜30席、スタンディングなら50名程度の広さ。場所は大通、ススキノ方面のどちらからも近い。基本的な照明・音響設備は整っているので、展示から、ライブ、レクチャーなどほとんどのジャンルのイベントに利用可能だろう。

このATTICの主催の映像イベント第一弾が、7月22日及び23日に開催された。大人計画など多くの舞台に映像プランナーとして参加している奥秀太郎監督の最新作「カインの末裔」および過去の作品「日雇い刑事」「日本の裸族」「赤線」 が上映された。

「カインの末裔」上映の前に主演の渡辺一志による舞台挨拶が30分ほど行われた。上映前の舞台挨拶だったので、作品内容については避け、作品の撮影時の監督とのやりとりや、映画監督としても活躍する渡辺一志が映画の世界に入るきっかけなど、楽しいトークが行われた。映画を作り始めたのは高校で席が近かった友人から誘われたという些細なものだったという。

「カインの末裔」の上映がスタートした。あらすじは、主人公棟方(渡辺一志)は母親を殺し医療少年院で10年過ごした。彼は出所して川崎市の小さな電子部品工場で住み込みで働くことになる。そこで知り合った牧師(田口トモロヲ)からリモコン型の拳銃の製造を頼まれる。それから、様々なドラマが展開していく。

冒頭は主人公が川崎の町に訪れるところから始まる。前近代的な工業地帯が映し出される。そのインダストリアな光景はストイックなカッコ良さがあるな、と思ったら、期待を裏切るような生々しいカーセックスのシーンとなる。この冒頭には本作の世界観がギュッと圧縮されているようで好きだ。冒頭が良い作品は大抵面白い。

主人公を取り巻く工場の同僚、工場主、工場主の夫婦、牧師はみんなクセ物が揃っている。これらの人物は実に自然に濃くて、臭ってきそうな生々しさがある。そして、悪人にも良人にも思えないのがリアル。現実社会だってそんなものだと思う。純粋な悪人も良人もいないから世の中は複雑なのだ。

生々しい、と書くと昔の日本映画にあるような、やりきれない感、挫折感いっぱいのウェットな感情が吹き出す作品かといえばそうでもない。展開されるストーリーは悲惨といえばそうなんだけど、作風は非常に乾いていて、あまり感傷もなく、当然の生存、死の原理というべきものがあって話は不自然ながら実に自然にひとつの運命に収束されていく。重ねて言うけど、画面から伝わる人物の濃度、生々しさというのが半端ではなく、それは端役の子供にまで徹底している。

ヒロインは新人。他の登場人物とは違う清楚で優しげな雰囲気を持っているけど、まわりと浮くことはなく、とってつけたような主人公の味方にはなってない。彼女の真意は何だったのかと考えさせる深みを感じた。

舞台の小さな工場、主人公の住み込みの部屋での生活などの背景からして、主人公らの生き方は僕の住んでいる世界とはまったく違うように思える。だが,考えてみると、本作の舞台には仕事、宗教があり、セックスがあり、死がある、ということを考えると間違いなく僕たちの住む現実の社会の縮図なのだ。
「カインの末裔」は現実社会をアレンジしたひとつの鏡だと思う。

本作は第27回ベルリン映画祭に出品作される。外国ではどのような感想が出るのか興味深い。

カインの末裔
監督・脚本:奥秀太郎
キャスト:渡辺一志、田口トモロヲ、古田新太、内田春菊、楊サチエ
https://www.cains.jp

Text: Shinichi Ishikawa

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
フェルナンド・トロッカ
MoMA STORE