メゾン・ルージュ(赤の屋敷)

PLACEText: Linlee Allen

筋金入りの現代美術コレクターのライフスタイルをちょっと体験してみませんか?

8月のパリ。違う日に、同じような会話を何度か交わした。『夏休み、どこかに行った/行きますか?』などなど。

一年のうちで最も退屈な月が、ここフランスの首都ではやっと過ぎ去り、インスピレーションの賭けとでもいうようなアイテムが展示されるアートショーがあると聞い、てなんだかほっとした。もう少し経てば、天気や大量の観光客についての会話を儀式のように交わすようになる。

メゾン・ルージュ(赤の屋敷)には、もう行った?』

(この記事を読んでいるフランス人で、まだアートスペースにさしたる関心を払っていない人は恥ずかしいと思ったほうがいい。今まさに、自分の中に文化的なことにまつわる予定を復活させる時なのだ)

簡単に言えば、この展覧会は “コンセプト” だ。1000立方メートルのギャラリースペースには、3つのバスルームを含む15の部屋がある。レイアウトはまるで未完成の間取りのようで、整然とミニマムにデザインされた家具類が備え付けられている。

著名なライターであり精神分析学者でもあるガラード・ワックマンによる元々のアイディアはこうだ:筋金入りのコレクターが、ありとあらゆる部屋 ー オフィスからリビングルーム、バスルーム、ベッドルームまで ー を4ヶ月の間、メゾン・ルージュに移すというもの。

「親密な密室」と題する展示の目的は、平均的な美術愛好家たちに実際に美術作品に取り囲まれて生活する感じが、一体どんなものなのかということを想像させることだ。

オフィスを例にとってみよう。3メートル以上はあるかと思われる不敵な微笑を浮かべたクマ(ポール・マッカーシー作)が入口で我々を迎える。角には、フランスで言うところの「n’importe quoi(いろんなもの)」が沢山つまった薬のキャビネット(ダミアン・ハースト作)がある。それから日本製のフィギュア(村上隆作)が、積み重なったアートブックの傍らに佇んでいる。そして机の後ろには、香港株式取引所の巨大な写真(アンドレアス・グルスキー作)が壁に掛かっている。さて、もしこれが筋金入りのコレクターの仕事環境のレプリカではないとしたら、私にはそれが何なのか分らない。

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