2001年9月11日のニューヨークの出来事
HAPPENINGText: Rei Inamoto
ダウンタウンの方へ向かって歩き続けて行くと、灰で覆われた車数台とすれ違った。そのうち何台かのウィンドシールズは壊れていた。この頃までには、道はバリケードで囲われ、交通は逆流していた。ダウンタウンに向かうにつれ、そこにいる人々は減って行った。
弟のアパートに着いてすぐ、『彼女の声が聞こえてちょっと無気味だ』と友達が言った。目の前のテレビが私達の気を少し紛らわせた。
何百回と同じ場面を見た2時間後、私はガールフレンドと一緒にウィリアムズ・ブリッジを歩いて渡り、家に帰ることを決意した。天気は良かったが、それ以上に悲しみでいっぱいだった。この日は、ニューヨークの歴史の中で最も暗い日の一つに数えられる。橋から、以前より低くなったマンハッタンが太陽に照らされているのが見えた。日の光は、混乱の中厚い煙を通して、美しいニューヨークのスカイラインと事件の醜悪さを並べてみせた。
私達のうち、一人がこんなコメントを寄せている『まるで映画のようだ…。』私は自分で考えてみた。ああ、映画は現実を真似て、できるだけ現実感を出そうとしていたのに。時を経て、フェイクがだんだん現実になって来た。私達は気付かなかった。フェイクが現実を超えて、現実そのものよりも、もっともらしくなってしまったということに。ある意味で、映画が私達の現実を作りはじめているのだ。なんという皮肉。
夕方、私達は無事家につき、大家さんと安堵の挨拶を交わした。ウォールストリートで働いていた大家さんの息子が、脱出の時の話をしてくれた。近所に住んでいるもう一人のいとこは、ワールドトレードセンターの84階で働いていたが、飛行機が突入するほんの少し前、上司に5階に降りてくるように言われたそうだ。運命とは、本当に不思議な物だ。彼の11歳になる娘さんは、教室の窓からあの飛行機の一つを見たと言う。彼女は、びっくりするぐらい落ち着いている。3歳の息子さんは、母親にニュースを見ようよと言っているそうだ。彼は、おそらくまだわからないのだろう。
あの日、全てのものが動いていたけれど、凍っているように思われた。まるで、1分にも満たなかったあの攻撃と崩壊の瞬間が、丸一日かかった出来事のように感じられるのだ。
これが、2001年9月11日のニューヨークの出来事。
Text: Rei Inamoto
Translation: Naoko Ikeno