アンカレッジ

PLACEText: Rei Inamoto

ニューヨーク市内のギャラリーの多くが、近年マンハッタン郊外に移動を始めている。チェルシーのギャラリー街やクイーンズのP.S.1といった場所は、人や車でごった返したニューヨークの日常から逃避するのに最適な場所なだけではなく、楽しく穏やかにカルチャーを体験できる場所となっている。

ブルックリン橋のふもとの内部という変わった場所にあるアンカレッジは、質的にはゴシック調で、外観的にはインダストリアル調な、美しく巨大なスペース。1世紀以上もの間レンガで覆われていたそのスペースは、ありのままの空間的な雰囲気を作り出している。だが、その構造の壮大さのために、教会のような印象を与えている。

現在、クルト・ヘントシュラーガー(音楽)とウルフ・ランゲンリッヒ(映像)によるオーストラリアのアートデュオ、グラニュラーシンセシスによる「ノイズ・ゲート」というインスタレーション展が、アンカレッジで定期的にイベントを開催している団体・クリエイティブタイムの主催で開催されている。

真っ暗なスペースの壁全面に巨大なスクリーンを並べ、そのスクリーンには人間の頭が映し出されている。会場いっぱいに繰り返し響き渡る機械的なノイズに合わせて、スクリーンに映し出された頭が素早く動いたり、突然停止したりする。グラニュラーシンセシスという言葉は、デジタルオーディオを統合するテクニックである、サウンド・シンセシス(粒状になったサウンドの統合)に由来する。今回のインスタレーションで彼等は、「人間をマシンに変換」していた。

アンカレッジで開催されるイベントの内容にかかわらず、ニューヨークの日常から逃れるため、是非一度行ってみることをお勧めする。楽しむことができる数少ない聖域のひとつであることは間違いない。あとは、この場所がニューヨークがこれまでしてきたように、商業主義に侵されないことを強く願うばかりだ。

The Anchorage
住所:Brooklyn Bridge, Cadman Plaza West, Brooklyn
https://creativetime.org

Text: Rei Inamoto
Translation: Mayumi Kaneko

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE