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マームとジプシー × トリッペン「BOOTS」

HAPPENINGText: Noriko Ishimizu

「BOOTS」は、森を舞台にして展開する。カラオケ店でアルバイトをしていたあじさい(荻原綾)の両親が10年前に亡くなり、くこ(川崎ゆり子)、つゆくさ(中村夏子)、よか(成田亜佑美)、れんげ(長谷川洋子)、すずしろ(石井亮介)の5人はクリスマスに山小屋に集まる約束をした。その翌日、よかとあじさいは無人駅で再会する。


© MUM&GYPSY

同じ台詞や動作を反復することで、その場面を観客の記憶を刻み、感情を増幅させていくマームとジプシーの代名詞ともいえるリフレイン。モノローグとダイアローグをリズミカルに行き来しながら、エピソードは有機的に変化して解像度を上げるように観客の想像の中に立ち上がる。結末に向かうと、6人の思いは交差していたかのような爽やかな後味を残して、幕は閉じた。


© MUM&GYPSY

舞台上で役者が身に付ける衣装の一つである靴。2018年11月16日公演「BEACH」のアフタートークで、藤田氏は『(トリッペンの靴は)パーソナルの部分で、似合う似合わないがある』と語っていたが、選ばれた靴が役者に呼応しているようで面白い。作品のビジュアルの中心に据えたというトリッペンの靴は、森や海といった劇の背景にもしっくりと馴染んでいた。

さらに「BOOTS」では、靴が死に伴う痛覚を観客に伝播させる媒介となっていた。プロローグに「これだっていつかは、ケモノだった。」という一節があったが、素材が革であるブーツと、劇中で起こる一匹の動物の事故のイメージとが重なり、肌に貼り付くように実態のない死の質感が身体感覚として残った。


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舞台上で華やか存在感を放っていたクリスマスツリーには、トリッペンによる端材を使ったオーナメントが飾られていて、12月24日公演のアフタートークで藤田氏は『(ブーツの素材が)皮だったということをこんなに意識したことがなかったです。多分まだ生きていた時にできた生傷みたいなものがこのオーナメントにもあって』と話していた。そう聞くと、職人の手にかかり複数の革をつなぎ合わせて編まれた美しいブーツの裏に、一瞬身体の損傷を想像してしまう。

藤田氏はトリッペンの靴について、ユーザーが素材や色を選ぶことのできる“編集”が施されたことに、舞台との類似点を見出しているが、「BOOTS」でもその編集の妙を堪能できる。

「BEACH」は「BOOTS」と物語の背景がリンクしつつ、別のエピソードとして展開する。もちろん、一作だけでも楽しめるのだが、続けて鑑賞すると「BEACH」と「BOOTS」の世界観が同期するような感覚を体験できると思う。リフレインで焼き付けられた「BEACH」の場面の記憶は、役者が身につけた靴と仕草をトリガーにして、「BOOTS」の上演中にもふと呼び起こされることがある。現在、この二作品は4都市ツアーを実施中だ。

マームとジプシー × トリッペン「BOOTS」 
会期:2018年12月21日(金)~29日(土)
作・演出:藤田貴大
会場:LUMINE0(NEWoMan Shinjuku 5階)
キャスト:荻原綾、川崎ゆり子、中村夏子、成田亜佑美、長谷川洋子、石井亮介
https://mum-gypsy.com

Text: Noriko Ishimizu
Photos: Sayuki Inoue © MUM&GYPSY

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