イラストレイティブ・ベルリン 2007

HAPPENINGText: Ayako Yamamoto, Kenichiro Taniguchi

3階まで続いていく展示会場の中で、まず目にとまったのは、フランシス・ベーコンから絵ふでを取り上げて、マウスを持たせたような作風の平面作品を発表したフランソワ・スピオの作品である。

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Fancis Supiot

パリでグラフィックを学び、現在もフランスで活動中のこの作家は、医学や生物学の専門書などから得たイメージをコンピュータ上でコラージュし、暗い画面内に浮かびあがらせていく手法を用いる。パズルを組み合わせていくように、イメージを画面上でモデリングし、最終的には人の形に組み立てていく。見る側にはっと息を飲ませるような鮮やかで衝撃的な美しさと同時に、病的な妖しさも兼ね備えた作品だった。

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Olaf Hajek

コンピュータでつくられたグラフィックにあふれている今日、純粋な手仕事をみると目が洗われる。オラフ・ハジェックは現在ベルリンで活動するビジュアルアーティストである。人間と風景がランダムに登場する彼の画面は、B級映画のシナリオの一場面のようである。人間と言っても、頭にマスクやたこ、ハリセンボンさえもかぶっている奇妙な一群がメッセージを秘めてこちらをみている。これらリアリティとイマジネーションという二つのコンセプトの境界にあるモチーフが、彼の魔法の手にかかることによって舞台の上で生き生きと繰り広げられる劇の登場人物に生まれ変わる。かれらのささやく声が聞こえてきそうだ。ふと頭に彼のためのニックネームが浮かんだ。マジカル・リアリスト。

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Lars Henkel

もう一人紹介せざるを得ない作家がいる。ローマ生まれのラース・ヘンケルである。ベルリンを拠点にイラストレーターとして活動するこの作家は、ドローイング、彫刻、そして写真というオーソドックスな表現手法をコンピュータ内で融合し、靄がかかったような作品上に配置する。写真がぼけているわけではない。ギリシャ彫刻を思わせる人形(ほとんどは腕が無い)が美しいモノクロの陰影とともに登場し、シュールな演出で空虚な場面を造りだす。「日本の彫刻家・船越桂がアニメの巨匠ヤン・シュヴァンクマイエルに彫刻を貸し出した」ような、品のある疑似体験を経験できる。

全体的な傾向として、手仕事が持つ温かさと、コンピュータが持つ理性を上手に対比させていく作品が多かったように思える。どちらかひとつだとやはり人間はバランスを失うのだろう。会場の柱や天井に残る古風な強さを持った装飾に、作品たちは負けていなかった。

イラストレイティブ・パリは、11月29日から12月9日にエスパス・コミンヌ(17 rue Commines)で開催予定。

ILLUSTRATIVE BERLIN 07
会期:2007年8月31日(金)〜9月16日(日)
会場:Villa Elisabeth
住所:3 Invalidenstr., 10119 Berlin
https://www.illustrative.de

Text: Ayako Yamamoto, Kenichiro Taniguchi
Photos: Ayako Yamamoto, Kenichiro Taniguchi

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