新世紀エヴァンゲリオン

THINGSText: Tomotaka Nagata

君は「新世紀エヴァンゲリオン」なるテレビアニメを知っているか。

1995年10月から1996年3月まで、テレビ東京系列というマイナーな局の、夜6:30から7:00というこれまたマイナーな時間帯に放映されたテレビアニメだ。その人気は凄まじく、関連グッズは飛ぶように売れ、CD(アルバム)3枚 計82万枚、ビデオLD10巻、計214万個、コミックス3巻 計300万部などという驚異的な数字を記録。その経済効果は全体で200億円近いともいわれてる怪物アニメだ。

が、これだけ凄いことになっているのにもかかわらず、大多数の人間がこの作品の存在さえも知らないという、何とも不思議な状況。これは一体何なのか?ってまあ、これは至極当然の話。だってこんなアニメ、オタクしか観ないもの。オタクはみ〜んなエヴァを知っているけど、非オタクな人は全く知らない。ただそれだけのこと。

「美女と野獣」「ポカホンタス」といったディズニー系、「となりのトトロ」「風の谷のナウシカ」といったジブリ系、「攻殻機動隊」「メモリーズ」といったいわゆるジャパニメーション系のアニメとは違って、あくまでエヴァがターゲットとしているのはオタクオンリー。

とりあえず、序盤のストーリーを少し解説してみると、

舞台は2015年の第三東京市。2000年に起きたセカンド・インパクトと呼ばれる人類の半数を失ってしまったほどの天変地異からやっとこさ立ち直った世界。そんなある日、なんかわけの分からない「使徒」なる謎の敵が攻めてくる。そしてそれに打ち勝つ唯一の兵器が、国連特務機関NERV所有のエヴァンゲリオンというロボット(?)で、それに乗ることのできるのは選ばれた14歳の少年少女達(主人公である碇シンジ、綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー)。
人類の存亡を賭けた戦いである以上、彼らには選択の余地など残されているはずもなく、によって半ば強制的に生死を賭けた戦いに巻き込まれていく。

どう?一言でいえば「かっこいいロボットに乗り込んで、不思議な敵と大バトル!しかも美少女キャラが出るんだぜ!うっしっし」なストーリーでしょ。ってやっぱりこんなのオタクしか観ません。っていうかエヴァ観てるのに「僕はオタクじゃありません」だなんて平気で言う奴は嘘つきです。こんなアニメを毎週夕方六時から観てた奴は間違いなくオタクです。つまり、エヴァとはオタクの為に存在するアニメなのだ。やったね!

とは言うもののストーリーが後半に差し掛かってくると、その雰囲気はがらりと変化。そのいかにもお決まりな「オタクに媚びた」ストーリーはなりを潜め、全く救いの無い、なんとも悲惨な物語となってくる。人間関係はほぼズタズタ。ギスギスとした空気が作品全体を覆い始める。とにかく一つ一つのエピーソードが残忍。主人公である碇シンジは友人を片足を自らの手で失わせ、綾波レイは自爆。惣流・アスカ・ラングレーは使徒による精神汚染によって廃人に。その後碇シンジの前に新たなる友人として渚カヲルなる少年が現れ、同性愛的な関係をもつものの、彼が使徒であることが判明し自らの手で彼を抹殺。

あれあれあれ!?オタクの為のアニメを期待していた僕らはただ戸惑うばかり。「あれ〜、なんかもっと楽しげな話だったのに〜」「なんか謎が全然明らかにされないなあ」「レイちゃん可愛かったのに、じっ、じっ、自爆〜?」「アスカ、気が狂ったまま出てこないんですけど、、、」

けど、僕らは見続ける。なんだかよくわからんがとにかく凄いから。ストーリーも抽象的でよく分からんがとにかく凄いから。異様なまでに高まり気味なそのテンションからもう目が離せない。そんな状態で全26話中24話を消化。残るはあと2話。僕らはほんのちょっぴりの期待を抱きつつラスト二話の放映を待った。

しかし、そんな期待は思いっきり裏切られる。ラスト二話、そこにはもはやストーリーなんて存在せず、描かれるのは碇シンジの心理的内面を舞台とした妄想の世界。絵は全く動かない。止め絵の連続。やたらと多い過去のシーンの使い回し。荒れる作画。揚げ句の果てには台本をそのまま画面に大写しでバーン!

そして碇シンジは登場人物に囲まれ、何やら訳の分からぬ会話を交わしたのち、

「そうか分かったぞ!」
何だか知らないけど勝手に分かっちゃって、
「おめでとう」
拍手に囲まれパチパチパチ〜でTHE END。なんだこりゃ。僕らは呆然。

かくして勃発したのがエヴァンゲリオン大論争。

「ああ、僕はこの作品を観て非常に感動しました。何だか救われた感じがします。とても良かったです。」
「なんだと!あんなもん全然ダメだよ。ラストだってあれ、自己開発セミナーそのまんまだぜ。あんなまがい物で救われる奴のほうがどうかしてるよ。」
「そんなことありません!大体あなただって毎週観ていたのでしょう?」

「いや、俺は気が付いていたんだ。でもあえて観ていたの。それにあのラスト。絵が全然動いていなかったじゃないか!セルも使い回しが多いし。あんなの手抜きだ!庵野はプロ失格だ!」
「いや、あれはあれで良いのです。とても斬新な表現の仕方だと思います。あなたのような曲がった解釈しかでいない人間こそ、庵野監督は救いたかったのかもしれませんね。」
「大きなお世話だ!それじゃ謎は何処へ行ったんだ。あれだけ伏線張っといて、あのラストじゃ納得いかんぞ!」
「私はあのラストで十分納得できました。それにそもそも、謎というものは全て明らかにされる必要があるのでしょうか?」

今日もどこかでこんな論争が続いている。

Text: Tomotaka Nagata

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