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RTR VOL. 008

THINGSText: Yoshihiro Kanematsu

春が近づく3月初旬、フリーペーパー、rtrのvol.8がドロップされた。「読むフリーペーパーから観るフリーペーパーへ」を掲げる「rtr」は、白と黒のハイコントラストな誌面を舞台に、グラフィックからコラージュ、ドローイングまでストリート発の「自由な視覚表現」を紹介している。プリント/製本は、グラフやテンプリントに支えられ、肌触りだけでなく紙の匂いまで豊かな、東京でも中々お目にかかれない気合いの入ったフリーペーパーだ。

毎号ゆるやかにテーマが設定されていて、8号目となる今回のテーマは「Communication」。中をあけると、巻頭からぶっ飛んだアナログなドローイングが続く。これは、FAXを使って作品を送り合い作品を完成させていくプロジェクト「FAXMACHINE」のビジュアルを掲載したものだ。

ローリングサンダー、zakky(野良猫ロックス)、かえる先生、そしてスティルライフという多才/多彩としか言いようのない、FAXMACHINEクルーが作り出す偶然と必然のコラージュは、rtr発行人の山森君が言う『手探りながら実際交わされたであろう言葉以上のやりとり』が垣間見えて、その見えないつながりに思わずゾクゾクしてしまった。

1ページにつき一つの作品というわけではなく、あくまで続けて届いたFAXのように途切れ途切れに裁断されている。番号などデータ部分は黒く塗りつぶされ、紙質は光沢紙のような触感がリアルだ。意外となくてはならないFAXというデバイスは、デジタル化が進みながらも、作品の解像度を絶妙にぼかしながら味わいを加えていくアナログな魅力がある。何となくの非再現性があるからこそ、これほどの唐突な、でも力強いインスピレーションの連続がわき上がったのだろうか。

後ろの方にはそれぞれのグラフィックアーティストの個々の作品も掲載されている。FAXMACHINEの作品と比較してみるだけでも、コミュニケーションとは何か、スタイルとか個性とか言われているものはどういうことか、ちょっとだけ見えた気がした。幸せな感じでケツに火がつけられる仲間がいるからこそ、自分の着想が露になって腕が磨かれていく。そんな今なお続くスタイルウォーズの現場の姿が、rtr vol.008には詰まっていた。

山森君いわく、『今後もプロジェクトや展覧会とのコラボレーションを積極的に取り上げていく』と言う。東京のアンダーグラウンドな動きと連動しながら、いまそこにあるシーンをトレースしてつなげてゆく。そんな幸せなメディアの使い分けが、東京では確かにスタートしている。

Text: Yoshihiro Kanematsu

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