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ロサンゼルスのストリートアート

HAPPENINGText: Aya Muto

ブッシュ大統領が就任してからというもの、彼をモチーフにしたテレビ番組、コントなどを始めとして、表現界の反応が実に活性化している。


© Rhonda Winter, Photo courtesy of New Image Art

コアグラ・アートジャーナル(Issue#50, March 2001)で「The Art of Loving Bush」を書いたジュリアン・ニツバーグは『…過去の統計を見ても、共和党天下の元での方がアート界は元気』という。ただ事態はそれだけに収まらず、もっぱら大統領はプロパガンダ界のアイドル状態。数多くのとんでもない発言を次々と産出する上、口をきゅっと曲げたすっとんきょうな表情を始めとしてビジュアル的にも魅力的な素材を提供し続ける。ストリートからも多々のポスターが応戦。ギャラリーに場を移しても既にアイコン受けするフィギュアとなっている。これらの作品を制作しているのは、ベイエリアを拠点に写真、ペインティング、パフォーマンスなどで表現活動を続けるウインター。ニュー・イメージ・アート・ギャラリーで彼女の作品を見ることができる。新聞でブッシュ大統領の写真付き記事を見るたび、何処かで制作の虫がうずいていることを思うとなんとも楽しい。

ショーウィンドウを持つ店舗にとっての頭痛の種となっているのがこの酸性の塗料を使った新しいタギング。ガラス細工のエッチングの行程で使われるこの塗料が使われ始めたのはそう昔のことではないが、実に急速に広がっていて、従来のスプレーペイントのように除去作業がままならず、被害の程度によっては数十万かけてガラスの入れ替えなどが強いられたりする。残す側にとっては長持ちするというメリットがあるらしいが、ウィンドーにがターゲットとなるこの方法、塗料のメーカサイドに苦情が寄せられたり、新聞に取り上げられたりして問題となっている。

このストリートといういわば媒体としての発言力に目を留めたのが広告業界。従来は規定されたビルボードやバスなどの公共空間に期限付きで出されていただけの広告がそのボーダーを破ってきた。例えばドットコム・バブルで数々のEコマースが生まれたが、日本でいう、iモードのような情報提供デバイス「MODO」は、 ストリートを拠点に売りだし前キャンペーンを大展開。大きなビルボードはもちろん、手のひらサイズのステッカー(絵柄の変わるやつ)は、街中の壁や新聞ボックスなどに貼られ、スプレーペイントを用いたステンシリングも活躍。ところが皮肉にもハメを外しすぎたのか実際の商品発表前にメーカーが倒産。リリースパーティは開催アナウンスが既になされていたこと、それから費用が既に支払われていたことを理由に決行されたものの、主役のいないありがちなパーティーに終わった。その夜はあちこちでEコマースの苦をささやく声が。他にもレコードレーベルがニューアルバムの発売に合わせてストリートキャンペーンを展開することも今では珍しくない。

例えば、昨年レディオヘッドの「KID A」リリースに合わせて、 街中におなじみのキャラクターのステッカーが貼られ、ステンシルもそれに花を添えた。広告キャンペーンにもかかわらず、そこに親切な情報は一切なく、レディオヘッドの名もない。知ってる人、気に留める人にだけ向けられた、いわば記号での情報発信である。そして6月5日にリリースされた彼らのニューアルバム「アムニージアック」でも同様のキャンペーンが展開されている。

ストリートというのは、人々が生活する中で何気なく通り過ぎる空間であり、しかしその意識の中で大きな意味を提示する力をも持つ。家を出て目的地にたどり着くまでの道のり。刷り込み学習のように毎日目にして見慣れたものの中にちょっとした変化を見つけたら、思わず「おっ」と気をとめるだろう。また、まったく関心を払わない人もいるかも知れない。ギャラリーや美術館と違って人々が既にそこに生活し、あえて目的性をもって「行く」ということの求められないストリートという無限空間。ここロサンゼルスでは、それがどこまでも広がる。

ニューヨークやサンフランシスコのように凝縮され煮詰まった旨味のようなプレゼンテーションとも違うが、持て余すスペースの配分がアーティストおのおのの空間のセンシビリティに任されているところもあって、とても興味深い。今までただの「風景」だったところに「意味」や「記号」を見いだし始めたこの頃は、毎日の運転も気が散ってしょうがない。

最後に1枚、アースリンク社の広告を手がけるブラック・マーケットのシェパードの絶妙なポスタリングぶりをどうぞ。コマーシャルワークとストリートアートの実に美しいコラボレーション。奥にオーベイのアンドレの顔、見えますか?

Text: Aya Muto

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