東京ステーションギャラリーで安井仲治の20年ぶりとなる回顧展「生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真」が、4月14日まで開催されている。本展は200点以上の出展作品を通じて安井仲治の全貌を回顧するもので、戦災を免れたヴィンテージプリント約140点、ネガやコンタクトプリントの調査に基づいて制作されたモダンプリント約60点のほか、さまざまな資料を展示。卓越した技術で人々の記憶に残る安井仲治の生涯と功績に焦点をあてた写真展である。
展示風景 Photo: Alma Reyes
展覧会は安井の生い立ちから始まる。1903年、大阪に生まれた安井は、学生時代からカメラに魅せられていた。18歳で浪華写真俱楽部に入会。写真家としてまたたく間に頭角を現わし、日本全国にその名が知られる存在になった。欧米の先進的な写真表現や理論をいちはやく受容し理解した安井は、さまざまな被写体ににカメラを向け、多岐にわたる技術や表現様式に挑戦し続けた。
安井仲治《(横たわる女)》1930年頃、安井冨子氏蔵 Photo: Alma Reyes
安井は、写真に顔料を塗布するピグメント印画法を用いた。この技法は、霞がかかったような、あるいは蒸気のような効果をもたらし、写真をまるで絵画のように見せた。その作品は、同時代の写真家をはじめ、土門拳や森山大道など後世に活躍した写真家たちからも高く評価され、安井仲治の名は日本写真史に刻まれることになった。
安井仲治《 駅頭の昼 》1922年、個人蔵(兵庫県立美術館寄託) Photo: Alma Reyes
展示された《(横たわる女)》(1930年頃)や、《 駅頭の昼 》(1922年)は、ブロムオイル印画法(銀塩白黒写真の銀をインクに置き換えていく写真技法)で、ぼかしやセピア調の印象を与えた美しい作品。大阪駅で撮影された後者の作品では、道路と駅舎を対角線上に配置し、人力車の大きな車輪と佇む人々をアクセントにしている。
]]>国立新美術館では、5月27日まで「マティス 自由なフォルム」を開催している。4.1×8.7メートルの大作《花と果実》(1952-1953年)をはじめ、マティスが晩年、精力的に取り組んだ「切り紙絵」に焦点を当てた展覧会は日本初。ニース市マティス美術館所蔵作品を中心に、切り紙絵に焦点を当てながら、絵画、彫刻、版画、テキスタイル等の作品や資料、約150点を紹介する。また、1948年から1951年にかけてコートダジュールのヴァンスに建設されたロザリオ礼拝堂のレプリカにも注目。建築からステンドグラス、壁画などの建築から室内装飾、祭服に至るまで、すべてマティスの構想によるもの。
アンリ・マティス《ブルー・ヌードIV》1952年 オルセー美術館蔵(ニース市マティス美術館寄託)© Succession H. Matisse Photo: François Fernandez
最初のセクションでは、マティスが生まれたフランス北部で描かれた初期の作品や、フォーヴィスムの時代へ向う頃に制作された作品を紹介。画家になる前、故郷の法律事務所で働いていたマティスは、体調を崩して病に倒れ、母親から絵具箱を買い与えられた。これがきっかけとなり、マティスはデッサンや絵画に挑戦するようになる。やがて画家になるためにパリに移り住み、国立美術学校でギュスターヴ・モローに師事。ウジェーヌ・ドラクロワ、ポール・セザンヌ、印象派の画家たちから多大な影響を受けた。後にマティスは南フランスのトゥールーズやコルシカ島に滞在し、光の表現を探求するスタイルに初めて取組んだ。
アンリ・マティス《マティス夫人の肖像》1905年 ニース市マティス美術館蔵 © Succession H. Matisse Photo: François Fernandez
《マティス夫人の肖像》(1905年)は、ドランとよく仕事をしていたスペイン国境から20kmほどの距離にある、地中海に面した町、コリウールで描かれたマティスの作品のひとつである。この二人の画家は、20世紀初頭に花開いたフォーヴィスム運動を主導。この肖像画は、フォーヴィスムの特徴をよく表している代表作で、大胆で荒々しい筆遣いを特徴とし、また原色を用いた鮮やかな色彩を表現した。
アンリ・マティス《赤い小箱のあるオダリスク》1927年 ニース市マティス美術館蔵 © Succession H. Matisse Photo: François Fernandez
1917年のニース滞在をきっかけに、マティスはこの街でアトリエを転々とさせて制作に励むようになる。アトリエは彼にとって重要な舞台であり、花瓶、テキスタイル、家具調度など、多様な文化的起源を持つ膨大なオブジェを飾り、モデルに様々な衣装を着せて楽しんだ。アトリエの調度品や背景を主題にした作品も多く展示されている。《赤い小箱のあるオダリスク》(1927年)は、ニースで描かれた有名な絵画のひとつで、幾何学的な形と線の壁と敷物を背景に、黄色、緑、赤の遊び心のある色彩で、曲線的な女性の身体を描いている。
]]>去年、10日間の会期中にのべ21万人の来場者が訪れたアートとデザインの祭典「DESIGNART TOKYO」(デザイナート トーキョー)が、今年も10月18日から27日にかけて開催が決定。今年のテーマは「Reframing 〜転換のはじまり〜」。現在、開催に向け、5月31日まで出展者を募集中。若手アーティスト・デザイナー支援のための出展料が無料になるプログラム「UNDER 30」(審査制/3月31日まで)も用意されている。
デザイナートは、東京からクリエイティブを発信し産業化することを志し、2017年に立ち上げられたプロジェクト。
世界屈指のミックス・カルチャー都市・東京を舞台に、世界中からアートとデザイン(建築、インテリア、プロダクト、ファッション、テクノロジーなど)が集結し、ショップやギャラリーなど様々な場所を利用して多彩なプレゼンテーションを行う革新的な取り組みだ。
8年目を迎える今年の開催エリアは、表参道・外苑前、原宿、渋谷、六本木・広尾、銀座など。また、アメリカやヨーロッパなど各国で実施されている社会全体でアートを支える運動「1% for Art」の法制化を目指すプロジェクトも展開されている。
DESIGNART TOKYO 2024
会期:2024年10月18日(金)〜10月27日(日)
出展エントリー期間:2024年3月1日(金)〜5月31日(金)※プランにより異なる
予定エリア:表参道・外苑前 / 原宿 / 渋谷 /六本木・広尾 / 銀座 / 東京駅周辺
主催:DESIGNART TOKYO 実行委員会
http://www.designart.jp
展覧会エントランス、パナソニック汐留美術館 Photo: Yukie Mikawa
ライトは日本で数々の功績の種を蒔いた。帝国ホテル二代目本館(現在は博物館明治村に一部移築保存)は、ライトの最も偉大な遺産の一つである。パナソニック汐留美術館では、1923年創業の帝国ホテルの100周年を記念して、3月10日まで「フランク・ロイド・ライト ー 世界を結ぶ建築」を開催している。日本にアーツ・アンド・クラフツ運動が導入されて以来、初めて西洋式の生活様式と美学を融合させた本格的な総合芸術作品と評価されるこのホテルの設計に、ライトを駆り立てたインスピレーションの源泉に焦点を当てた壮大な展覧会だ。フランク・ロイド・ライト財団、コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館、国内外のコレクターや美術館から寄贈された建築図面、写真、模型、家具、食器、インテリア、映像などを紹介し、ライトの建築と美術工芸への多大な貢献を総括する。
セクション1: モダン誕生 シカゴ―東京、浮世絵的世界観 Photo: Yukie Mikawa
ライトが建築家になる運命は、生まれる前から母親によって決められていた。ウィスコンシン州の片田舎からウィスコンシン大学マディソン校で土木工学を学んだ彼は、1887年にシカゴに移り、ジョセフ・ライマン・シルスビーの弟子となり、その後、ダンクマー・アドラー&ルイス・サリヴァン事務所に移った。有機的な成長、空間のバランス、インテリアのリズミカルな強化というサリヴァンの確固たる原則は、装飾や自然の要素へのライトの細やかな配慮に大きな影響を与えた。展示の最初のセクションでは、ライトの確固たるキャリアを形成した1800年代後半のシカゴの建築シーンを紹介する。
フランク・ロイド・ライト《第1葉 ウィンズロー邸 透視図》『フランク・ロイド・ライトの建築と設計』1910年、豊田市美術館蔵
素材と自然との結びつきを提唱したライトの建築家としての最初の作品は、ウィンズロー邸(1893~94年)で、水平ライン、平らな屋根または寄棟屋根、大きく張り出した軒、石、木、レンガなどの自然素材の使用で構成される、彼独自の設計手法、プレーリー・スタイル(草原様式)を投影したものだった。
ライトのウェールズ人の血筋と宗教的背景(父は万国主義者の牧師、母はオークパーク統一教会の会員、叔父はユニテリアン派の伝道師)は、ライト自身が住み、働いていたイリノイ州オークパークにある統一会堂(1905〜08年)の設計を依頼されたことと、ある種の繋がりをもたらした。予算の制約から、ライトはこの建物の主要な材料としてコンクリートを選んだが、それにもかかわらず、伝統的な西洋の教会建築を想起させるものであった。1905年に初めて日本を訪れたライトは、日本の神社の権現造りの特徴や、浮世絵の構図やモチーフをデッサンに反映させており、ライトにとって初の公共建築となった。
]]>麻布台ヒルズにオープンした麻布台ヒルズギャラリーの開館記念展として、「オラファー・エリアソン展:相互に繫がりあう瞬間が協和する周期」が2024年3月31日まで開催されている。アイスランドとデンマークのアーティストであるエリアソンは、私たちを取り巻く世界との関わり方に疑問を投げかけ、再考をうながす作品で知られ、近年は気候変動などの社会的課題への積極的な取り組みでも世界的に注目されているアーティスト。麻布台ヒルズが掲げる、自然、素材、人、文化の調和を象徴する本展では、麻布台ヒルズの開業にあわせて制作された新作のエリアソンのパブリックアート作品を中心に展示。色、光、動きを伴った知覚に訴えかける作品群を紹介する。
オラファー・エリアソン《蛍の生物圏(マグマの流星)》2023年, Courtesy: neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles, Photo: Jens Ziehe
オープニング・ルームでは、シルバー、ステンレス、LEDライトで彩られた赤いガラス球が天井から吊り下げられた《蛍の生物圏(マグマの流星)》(2023年)が展示されている。エリアソンが数十年の歳月をかけて完成させた同心円状に配置された3つの多面体は、小さいものが他の多面体の中に入り込み、回転する動きによって、幾何学的な形、影、色の精巧な配列を作り出し、それらが周囲の壁に投影される。
オラファー・エリアソン《終わりなき研究》2005年, 個人蔵, Photo: Alma Reyes
広々としたメイン・ギャラリーに入ると、木、ゴム、金属、鏡、紙、スタンプでできた背の高いスタンディングのインスタレーションが目に飛び込んでくる。《終わりなき研究》(2005年)は、空間と音の相関関係を探る19世紀のハーモノグラフ(※)の創作版である。横方向に2つの振り子があり、動くと両端がヒンジ付きアームで繋がる。ジンバルに取り付けられた3つ目の振り子が回転しながら動く。その連結部にペンが取り付けられ、この水平面に円運動のリズムを記録する。
※ハーモノグラフ:振り子を用いて幾何学像を生成する機械
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Bianca Saunders ‘YELLOW’ SS20 campaign. Shot and Styled by Ronan McKenzie
展覧会の最初の章「ホーム」では、黒人移民がいかにして英国でお金を稼ぎ故郷へと戻ることを計画していたかが説明される。しかし、新しい世代の黒人イギリス人は「イギリスの気候が快適であることに気づき、より永続的な根を張るにつれて、結局ここが自分たちの故郷なのかもしれないと気づいた」と、展覧会は説明する。1970年代から1980年にかけての英国は、複雑な社会政治情勢を示し、サッチャー保守党とそれに伴う移民政策の転換によって、反移民感情が顕著になった。この激動の時代は、黒人英国人が元々持っていた遺産が新しい環境に適応するための異文化融合によって火がつき、数多くのサブカルチャー運動の出現につながった。抑圧に直面する中で、黒人英国文化とファッションが台頭した。
Erica Davletov looks at pieces from the archive of British fashion designer, Joe Casely-Hayford as they go on view ahead of the opening of ‘The Morgan Stanley Exhibition – The Missing Thread: Untold Stories of Black British Fashion’ at Somerset House, London. September 18, 2023. Photo: David Parry/PA Wire
展覧会の第二章では、「テーラリング」を探求する。さまざまな重要人物が、業界に大きな影響を与え、ゲームを変える役割を果たした。ガーナからの移民でイギリス生まれのオズワルド・ボアテングがそうであった。彼はファッション界に変革をもたらし、その先見性のある仕事は1990年代半ばのパリ・ファッション・ウィークで認められ、最終的には2003年にジバンシィ・オムのクリエイティブ・ディレクターとなった。その後、2005年にヴィクトリア&アルバート美術館は、ボアテングの影響力のある作品群を評価する20年回顧展を開催した。
Ossie Williams views MacPhisto suit by Joe Casely-Hayford worn by Bono ahead of the opening of ‘The Morgan Stanley Exhibition – The Missing Thread: Untold Stories of Black British Fashion’ at Somerset House, London. September 18, 2023. Photo: David Parry/PA Wire
エリザベス女王からOBE(大英帝国勲章)の栄誉を授与され、英国で最も尊敬されるファッションデザイナーの一人となったジョー・ケイスリー=ヘイフォードもまた、ブラック・ブリティッシュ・ファッションの重要な先駆者である。ケイスリー=ヘイフォードは、自身のファッション・ブランドを通じて現代生活を記録・研究し、社会の既成概念に挑戦した。ケイスリー=ヘイフォード家は、英国で最も影響力のある黒人一家と呼ばれている。妹のマーガレット・ケイスリー=ヘイフォード博士は、コベントリー大学の学長であり、シェイクスピア・グローブ座の理事長を務めている。息子のチャーリー・ケイスリー・ヘイフォードはファッションデザイナーとして成功し、娘のアリスは英国ヴォーグ誌のデジタル・エディターである。
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Mike Kelley, Kandors Full Set (détail), 2005-2009
2012年1月31日、マイク・ケリーはパサディナの自宅で自殺とみられる死体で発見された。今回パリ中心部にある商業取引所で彼の回顧展「ゴースト・アンド・スピリット」が2024年2月19日まで開催されている。この回顧展はピノー・コレクションからケリーのキャリアを網羅し、多くの作品が一堂に会するもので、その後ロンドンのテート・モダン、デュッセルドルフのK21、ストックホルム近代美術館に巡回する予定だ。
Mike Kelley, Kandors Full Set (détail), 2005-2009
1999年、ケリーは最も野心的な作品の一つである「カンドール」シリーズでスーパーマンへの興味を探求し続けた。カンドールはスーパーマンが生まれたクリプトン星の首都で、1930年に出版されたコミックに描かれている。ケリーが描くスーパーマンの故郷は、モダニズム的で色彩主義的なユートピアである。コミックでは、惑星全体が吹き飛ばされる前に、悪役によって町が縮小され回収、ガラス製の瓶(ベル・ジャー)に保存している。架空の都市は、この円形の部屋を囲むように設置され、テレビモニターにはショートフィルムが映し出された。この古典的なスーパーヒーローへの頌歌は、ケリーのポップカルチャーと階級差別への関心に応えたもので、私たちの上に立つ超人であると同時に、スーパーヒーローの出自にまつわる哀愁と喪失のメッセージを伝えている。
]]>『私たちの目標は、幅広い観客に質の高い映画を提供することです。私たちのプログラムでは、インディペンデント映画とスタジオ長編映画の両方、最も独創的なドキュメンタリー、そして最先端の短編映画を世界中から集めています。今年は50カ国から130作品が集まり、その30%以上がデビュー作でした。また、今年の傾向として、多くの作品が、このハイテク時代における「現実とは何か」をめぐる現代の不確実性を探求していた。今年の注目テーマ「もうひとつの真実」では、現代を鋭く分析し、ディープフェイク、AI、フィルターバブルといったクリエイティブな問いかけを、示唆に富んだ7本の映画で追った。この映画祭の主な目的の一つは、様々な国から新しく興味深い作品を発掘し、ストックホルムで紹介することです。私たちの観客は、スウェーデンの映画館で公開されないような作品を見ることに興味があり、特に日本からの作品を見たいと思っています』とプログラム・ディレクターのベアトリーチェ・カールソンは語る。
Maya Hawke and Ethan Hawke at Scandia theater. Photo: Joar Vestergren
今年のプログラムで幾つか注目した作品を紹介する。アメリカの伝説的俳優イーサン・ホークが、南部ゴシックの作家フラナリー・オコナーを描いた「ワイルドキャット」(2023年)を発表した。かねてから、オコナーに憧れを抱いていた娘のマヤ・ホークと会話をしていた彼は、一緒に仕事をするアイディアが両者にとって刺激的で、彼女の役を演じることを決めた。実際、ネットフリックスの超大作「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のキャラクターで一躍有名になったマヤ・ホークは、2023年にウェス・アンダーソン、ブラッドリー・クーパー、そして今回の父親の前座役でブレイクを経験している。また、まもなく公開される新作では、母親のユマ・サーマンと共演する予定だ。
WildCat (2023) Directed by Ethan Hawke
この映画はとても美しく撮影され、オコナーの悩める想像力を探求している。21世紀初頭のアメリカ南部で、宗教的に保守的だった母親との複雑な関係や、登場人物に影響を与えるような健康的な問題を抱えていた。『マヤはオコナー女史に本当に情熱を注いでいた。自分自身と作品との関係を第一に考える若い女性を主人公にした映画を作ったら、素晴らしいものになるのではないか、と思ったんだ。外見的なドラマがないにもかかわらず、彼女の内面にはとてつもない深みがあった。そこで私は、彼女の物語を真に映像化するには、彼女の想像力を掘り下げるしかないと考えた。そこで私は、2、3ヶ月の間に彼女の出版物をすべて読み、彼女の文章だけに没頭しようとした。どんどん読み進め、彼女の規範を深く掘り下げていくうちに、彼女の姿が見えてきた。彼女の肖像画のようなものが私の中に現れ、この本質こそ映画が捉えるべきものだと悟った。私は彼女の作品の中から、自伝的なタッチの物語、作家として彼女がなぜその物語を書いたのかを理解できるような物語を探し始めた。私はこれらの物語をコラージュのように紡ぎ合わせ、彼女の人生を物語るために彼女の文章を活用することを目指した。それが目標でした』とホークは語った。
How To Have Sex (2023) Directed by Molly Manning Walker
映画祭では、新しいイギリス映画製作にも目を光らせている。間違いなく、「ハウ・トゥ・ハブ・セックス(セックスのし方)」は今年を代表するイギリス映画だろう。実際、この映画の監督モリー・マニング・ウォーカーは、性的同意をめぐるグレーゾーンをニュアンス豊かに表現し、デビュー賞と監督賞を受賞した。
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インフォメーションセンターとオフィシャルカー CROWN “SPORT”(ワールド北青山ビル)© Nacása & Partners
デザイナート トーキョーは、東京からクリエイティブを発信し産業化することを志す、様々な分野で活動する5組6人の発起人によって2017年に立ち上げられたプロジェクト。世界屈指のミックス・カルチャー都市・東京を舞台に、世界中からアートとデザイン(建築、インテリア、プロダクト、ファッション、テクノロジーなど)が集結し、ショップやギャラリーなど様々な場所を利用して多彩なプレゼンテーションを行う革新的な取り組みだ。今年のテーマは「Sparks ~思考の解放~」。
ASIA CREATIVE RELATION powered by THE LIONS「A NEW HORIZON」展 インフォメーションセンター(ワールド北青山ビル)© Nacása & Partners
イベントの顔となるインフォメーションセンターとして、毎年多くの来場者を迎えるワールド北青山ビルでは、ゲストキュレーターにアジア太平洋地域のデザインに特化したメディア「デザイン・アンソロジー」の編集長スージー・アネッタ、空間デザイナーにヘルツォーク・ド・ムーロンから独立した石田建太朗を迎え、アジアの未来のスターデザイナーが集結する展示「A NEW HORIZON」を開催。
ASIA CREATIVE RELATION powered by THE LIONS「A NEW HORIZON」展 展示作品「Crest and Trough」by Dongwook Choi インフォメーションセンター(ワールド北青山ビル)© Nacása & Partners
空間には熱帯植物が多数配置され、都市における擬似的な自然環境を創出。展示は、デザインと現代のライフスタイルを踏まえ、2050年の未来のトレンドを考察するもので、「バイオモーフィズム」(植物や生命体、身体部分などの自然から生まれた抽象的な形態やイメージを指す言葉)「アップサイクル」(リサイクル素材、端材、余剰品 [再生プラスチック、廃プラスチック、建築廃材、消費者廃棄物、農業廃棄物など] を利用)「新しいベル・エポック」(政治情勢が不安定で人々が喜びと充足感に飢えるポストコロナの世界)「未来の伝統」をテーマに、東アジアのクリエイターによる意欲的なプロダクトが多数展示されていた。
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イアン・チェン《1000(サウザンド)の人生》2023年、展示風景:「Ian Cheng: THOUSAND LIVES」ピラー・コリアス・ギャラリー(ロンドン)2023年、撮影:Andrea Rossetti、Courtesy: Pilar Corrias, London; Gladstone Gallery, New York
このテーマは、現在、森美術館で2024年3月31日まで開催されている森美術館開館20周年記念展「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」でも取り上げられている。世界16カ国34組のアーティストによる写真、彫刻、絵画、版画、テキスタイル、映像、インスタレーションなど約100点の作品は、私たちの生息域の危機を広く認識させ、生態系の未来の枠組みを考察するという、手間のかかる、しかし意義深い挑戦である。その概要は、生態系のサイクル、汚染による有害な影響、人的資源の搾取、そして変化する人間の状況を癒す、あるいはさらに腐食させる未来のテクノロジーをカバーする4つの章にまとめられている。
ハンス・ハーケ《海浜汚染の記念碑》(《無題》1968-1972/2019年の部分)1970年、Courtesy: Paula Cooper Gallery, New York © Hans Haacke/Artists Rights Society (ARS), New York
第1章「全ては繋がっている」では、エコロジーと経済、社会生活、日常生活、そして有形無形の物質(動物、植物、微生物、製品、データ、廃棄物など)の絶え間ない循環との繋がりを定義する現代アーティストたちの作品が紹介されている。キネティック・アート、環境アート、コンセプチュアル・アートの第一人者であるドイツ人アーティスト、ハンス・ハーケは、スペインのカルボネラスという海岸沿いの町でハーケ自身が収集したゴミによる仮設彫刻「海浜汚染の記念碑」(1970年)を含む一連の記録写真を展示している。この写真は、海に散見されるゴミのキロメートル単位の広がりを示している。
ニナ・カネル《マッスルメモリー(7トン)》2022年、展示風景:「Tectonic Tender」ベルリーニッシェ・ギャラリー(ベルリン)撮影:Nick Ash ※参考図版
スウェーデンのニナ・カネルによる、5トンの貝殻を敷き詰めた「マッスルメモリー(5トン)」(2023年)は、来場者をその上を歩くように誘い、貝殻が砕ける音を発しながらやがて粉々に砕けていく大規模なインスタレーション。展示されているホタテの貝殻は、年間20万トン以上の貝殻が廃棄される北海道から採取された。貝殻という有機物がセメントなどの建材として再利用するには、洗浄と焼成の工程を要し、重油由来のエネルギーを無駄に消費することになる。
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© Artipelag
海岸の岩沿いの丘の間に位置するこの建物の各部屋は、この映画のような風景に向かって配置されている。本プロジェクトは、構想から2010年の竣工まで約10年を要した。重要な特徴は、自然が意図したように建物の周囲を手付かずのままに保つことで、そのため植生や崖が保存されている。さらに、入り口に、手付かずの変成片麻岩が配置されたレストラン「ボーダン」があり、現在は美術館のパーマネント・コレクションの一部となっている。
Bådan Cafe, Photo: Mike Kelley © Artipelag
また、建物の周りの小道は、アルティペラグを訪れる際の重要な体験の一部である。実際、常設展示の一部である「自然の中の彫刻」は、海辺に沿った屋外展示で、常に開放されており、芸術と自然を楽しみながら歩くことができる。この常設展示は、1970年代後半にロザリンド・クラウスによって初めて提唱された「展開された場における彫刻」というムーブメントに触発されたアルティペラグのDNAを象徴している。
Bigert & Bergström “Solar Egg” 2017 © Artipelag
様々な風景と芸術作品がこの散策路の中で混ざり合い、それぞれの彫刻の認識を一変させる。ラース・ニルソン、マリア・ミーセンベルガー、ビガート&ベルクストロムの作品「ソーラー・エッグ」(金色の巨大な卵型小部屋)は、実は内部がサウナになっている。
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「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 Photo: Alma Reyes
「モードの帝王」イヴ・サンローランの衣装、コスチューム、帽子、宝石、スケッチ、ポートレート、グラフィック・アートを紹介する大回顧展「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」が国立新美術館にて、12月11日まで開催されている。本展はイヴ・サンローラン・パリの全面協力を得て、没後日本で初めて開催される回顧展となる。1958年にメゾン・ディオールのために発表した最初のコレクションや、1962年に発表した自身のブランド「イヴ・サンローラン」の初コレクションなどから、世界のファッション界への貴重な貢献が262点の展示品により紹介されている。
イヴ・サンローラン、パリにて、1958年、撮影:アンドレ・オスティエ / イヴ・サンローラン、パリにて、1969年、撮影:ジャンルー・シーフ / オートクチュールメゾンを財団へと改装中のイヴ・サンローランとピエール・ベルジェパリ、マルソー大通り5番地にて、2004年、撮影:パトリック・デマルシェリエ Photo: Alma Reyes
第0章「ある才能の誕生」と題された最初の展示室では、写真やドローイングなど、サンローランの様々なポートレートが展示されている。これらの作品では、生誕地であるアルジェリアのオランにおけるサンローランの学生時代や青年時代、それに輝かしいキャリアの要点を見ることができる。ジャンルー・シーフ(1933-2000年)が1969年に撮影したイヴ・サンローランのポートレートは、官能的なモノクローム写真として広く知られている。シーフはサンローランおよび彼のスタジオと密接な関係にあった。アンディ・ウォーホルは1968年にサンローランに会い、『最も重要なフランス人アーティストだ』と評した。ウォーホルは《イヴ・サンローランの肖像》(1974年)を制作している。
スージーと他2人の名前のないペーパードールのためのワードローブ、1953-55年、コラージュ、グアッシュ/紙 Photo: Alma Reyes
サンローランは幼い頃から絵を描くことが好きであり、しばしば自宅でスケッチをして過ごした。母親が読んでいたファッション誌に触発されたサンローランは、13歳の時にオランで見た演劇の舞台衣装や舞台セットに夢中になり、本能的にファッションに惹かれていった。「ペーパードール」は、サンローランが16歳の時に制作したものであり、「紙のクチュールメゾン」の構想につながった。《スージーと他2人の名前のないペーパードールのためのワードローブ》(1953-55年)は、母親のファッション誌から切り抜いた人形に着せ替え用のドレスをデザインした作品だ。11体のペーパードールおよび500を超える洋服とアクセサリーが、1953年と1954年の秋冬コレクションのために制作された。
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ジョセフ・アルバース《プリズムのような II》1936年 ジョセフ&アニ・アルバース財団蔵 © The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo, 2023 G3217 Photo: Tim Nighswander/Imaging4Art
日本初のアルバースの回顧展「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」が、DIC川村記念美術館で11月5日まで開催されている。本展は、ジョセフ&アニ・アルバース財団の協力のもと、国内初公開作品を含む絵画や関連資料など、約100点を展示。芸術家としてのみならず、アルバースの教育者という側面にもスポットライトを当て、アルバースの作品を、彼の授業をとらえた写真・映像や、学生による作品とともに紹介する。
「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」展示風景 © The Josef and Anni Albers Foundation
展覧会の第1章「バウハウス ― 素材の経済性(1920–1933)」では、アルバースが学生時代を過ごした1920年から、のちには教師として閉校時まで携わったバウハウスでの学究生活に焦点を当てる。アルバースは、バウハウス以前は、故郷のドイツ、ヴェストファーレンで学校の教師として働き、ベルリンで美術教師としての訓練を受けた。そのため、彼の初期の教育学的背景は、デザインと教育の両分野における彼の学問の基礎を築いた。
紙による素材演習[水谷武彦の図面に基づく](2019年再制作)ミサワホーム株式会社蔵 Photo: Alma Reyes
アルバースが授業で一貫して重視したのは、素材の性質を把握し、効率よく扱う方法を習得すること。紙による演習は、バウハウスで彼が行った実験的な授業のひとつとして知られている。紙による素材演習[水谷武彦の図面に基づく](2019年再制作)は、紙を切って中心を持ち上げることで、螺旋状の塔を作り上げた例で、エレガントなシルエットは、構造体に強度と重量をもたらしている。
]]>日本では27年ぶりとなる大規模な個展「デイヴィッド・ホックニー展」が、東京都現代美術館にて11月5日まで開催されている。今回の個展では約120点の作品が展示されている。一例をご紹介しよう。色彩を豊富に用いて複数のキャンバスで構成した、壁一面を覆うほど巨大な作品。カリフォルニア、ロンドン、イースト・ヨークシャーやノルマンディーの風景から着想を得た、自然を描写した作品。他にも抽象画やコラージュ、知人の肖像画など、ホックニーの60年間のキャリアを辿れる、見応え満載の個展となっている。
「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》より 2011年、デイヴィッド・ホックニー財団蔵 © David Hockney Photo: Alma Reyes
本展の目玉作品であり、アジアでは初公開となる油彩画《春の到来、イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》(2011年)は、約幅10メートル×高さ3.5メートルの大作である。iPadで描かれた大判サイズの作品12点とともに、鑑賞者を取り囲むように展示されていた。ホックニーがイースト・ヨークシャーの春の風景画に初めて取り組んだのは、2006年のことである。季節の移ろいゆく様を一枚のキャンバスでは正確に表現できないことに気づいたホックニーは、1枚の油彩画と51点のiPadを用いた作品を創作する。巨大な油彩画は自宅のスタジオで、iPadで描いた作品は戸外で制作されたものだ。戸外でホックニーは自然と交感し、12月には地表の氷を、3月には葉に注ぐ日光を、5月には木や花に射す輝かしい光を描いた。木立の風景を描いた油彩画の方が色調と線のつながりが直接的に感じられたが、ホックニーはiPadによる作品でもテクスチャーの密度、大胆な色使い、光沢を表現することに成功している。本作を鑑賞するときは十分な時間をとって、蕾、花弁、枝、樹皮の木目、水たまりの映り込みのマーク(筆跡)に着目してみよう。本作の色彩を目の前にすると、心地よい至福と活力を覚えることだろう。
「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年《ノルマンディーの12か月》(部分)2020-21年、作家蔵 © David Hockney Photo: Alma Reyes
次の展示室では、90メートルに及ぶiPadで描かれた作品《ノルマンディーの12か月》(2020-2021年)が、湾曲するパネルに沿って展示されており、またもや見る者を魅了する。公園を散歩するときのように作品に沿って歩けば、ホックニーが住むノルマンディーの美しい田園を連続的に描いたパノラマに没入できる。この傑作は、中世の「バイユーのタペストリー」に着想を得て制作されたものである。「バイユーのタペストリー」とは、70メートル長の薄布に毛糸で刺繍を施した刺繍画であり、ホックニーは長年に渡ってこのタペストリーに魅了されてきた。新型コロナによるロックダウンの最中、ホックニーは自然を熱心に観察し、影や消失点がないタペストリーを参考に制作をしてみたいという思いが湧いたのだ。ホックニーは印象派に近いスタイルを採用し、春の最盛期から冬が去るまでの、草木、花、空の移ろいゆく色合いを重視した。本作は、和らいだトーンの夏と冬を横長のパネルに描いた《家の辺り(夏)》(2019年)、《家の辺り(冬)》(2019年)とともに展示された。この二作品は、インクジェットで紙に印刷されている。
「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》 2007年、テート蔵 © David Hockney Photo: Alma Reyes
ホックニーは1997年から、幼少期に親しんだヨークシャーの風景を描いた。自然ははっきりと目に見える形で、ただそこに存在している。したがって、ホックニーにとって自然光の降り注ぐ「戸外で」制作することは必然的なことだった(戸外制作とは、19世紀の印象派の画家たちの絵画スタイルを説明するときに用いられる表現である)。そのようなことを背景に出展されたのが、《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》(2007年)だ。本作は2007年に、ロンドンにあるロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの夏の展覧会向けに制作された横幅は12メートルを超える巨大な作品だ。ホックニーはまず全景の習作を1枚描き、50枚のキャンバスを構成して制作を進めた。スタジオの壁面に一度に並べられる枚数は限られていたため、キャンバスを1枚ずつ写真に撮影し、コンピューターでモザイク画のように組み合わせて調整するという作業が繰り返された。ホックニーはキャンバスを何度もスタジオから戸外に持ち出し、色調、濃度、テクスチャーを仕上げていった。本作は春が訪れる前、ブリドリントン西部に位置するウォーター近郊の風景を描いたものだ。むき出しの木からは葉が芽吹き始めており、背景は淡いピンク色と青色で表現されている。右下に描かれた小屋は人の住居である。同展示室内では、ホックニーが6週間をかけて完成させた制作過程の動画を視聴することができる。
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リジア・クラーク《動物ー二重の蟹》1960年 金沢21世紀美術館蔵 © “The World of Lygia Clark” Cultural Association, Photo: Taku Saiki
最初の展示室「つながり合うパターン」では、ブラジル人アーティスト、リジア・クラークによる蝶番のついた可動式のアルミニウム板を組み合わせた作品《動物》(1960年)を紹介。鑑賞者は自由に動かして様々な形を生み出すことができ、作品と鑑賞者との双方向的な関係性を生み出す。クラークは、「動物」は鑑賞者が動かすだけではなく、作品自らが動き出すような「生命」であると述べている。
『どの作品も根本的には有機的な性格をもっていたから。それに、板どうしをつないでいる蝶番をみると、私は脊髄を連想するのだ。金属板の配置を変えると「動物」の体勢が変わる。一見すると、体勢は無限にあるようにみえる。「動物」ができる動きはいくつあるかと訊かれると、私はこう答える。「私にはわかりません。あなたにもわかりません。でもそれ(「動物」)は知っている……」』。(リジア・クラーク『動物1960』より)
川内倫子《無題》2020年 金沢21世紀美術館蔵 © Rinko Kawauchi
川内倫子は、主に写真によって日常の断片が持つ曖昧さ、生と死の脆さや危うさ、畏れといった生命に潜む独特の雰囲気を表現する作品を生み出している。それらはしばしば夢のような輝きを放つ光で表現され、私たちの瞑想的な思考をくすぐる。展示室「惑星的な結びつき」では、幽霊のような存在感を放つ白い動物の形、森の日差しを浴びる二人の子供、泡や霧のイメージなど、穏やかな色彩の風景が広がる。また、「Mother Earth(母なる地球)」と「Me(私)」を意味する映像作品《M/E》は、一見無関係に思える様々なイメージから「私」と「地球」のやわらかな連鎖を印象づける。
イ・ブル《出現》2001年 金沢21世紀美術館蔵 © Bul Lee, Photo: Alma Reyes
目を引く展示室のひとつが、幻想的な世界やスピリチュアルな世界における幽霊的な形を表現する作品を紹介する「幽霊の形/形の幽霊」。青木克世、樫木知子、イ・ブル、中川幸夫、沖潤子の5人のアーティストが、生と死の間の、時や次元を超えた表現の作品で私たちの意識をかき立てる。特に目を引いたのは、クリスタルとガラスビーズ、ポリウレタン、ステンレスを身にまとった女性像が吊るされたイ・ブルの《出現》(2001年)とインクで描かれたドローイングなどによる「モンスター」シリーズ。SFから古典的な神話に至る様々な文化的引用をもとに、未知のものへの恐怖や身体とテクノロジーの関係を表現している。また、中川幸夫の血で覆われたような《聖なる書》(1994年)を不気味に見つめてしまうかもしれない。
]]>美術館で最も有名な常設展示作品は、オラファー・エリアソンの《カラー・アクティヴィティ・ハウス》(2010年)と、レアンドロ・エルリッヒの《スイミング・プール》(2004年)だろう。屋外の芝生広場に設置された《カラー・アクティビティ・ハウス》は、色の三原色ーシアン、マゼンタ、イエローの色ガラスの壁が、一点を中心に渦巻き状のパビリオンを形成している作品。壁の間を通り抜けると、重なり合う色彩に包まれ、周囲の街並みにカラフルな鮮やかさを加えており、美術館の白いファサードを背景に万華鏡のような鮮やかな色彩を放つ。ライムストーンのデッキが周囲を縁取る《スイミング・プール》は、ここから波立つプールを見下ろすと、あたかも深く水で満たされているかのように見えるが、ガラスの下は水色の空間となっていて、鑑賞者はこの内部にも入ることができる。この2大インスタレーションだけでも、この美術館に足を運ぶ価値があるだろう。
アレックス・ダ・コルテ《開かれた窓》(2018年)©︎ Alex Da Corte studio
金沢21世紀美術館では、9月18日まで、ベネズエラ系アメリカ人アーティスト、アレックス・ダ・コルテの興味深い展覧会「Alex Da Corte Fresh Hell アレックス・ダ・コルテ 新鮮な地獄」が開催されている。7つの展示室で最近作を含めた全11点の映像インスタレーションなどの作品が紹介されている。本展は、ダ・コルテにとってアジアの美術館での初めての展覧会で、色とりどりの巨大な箱型のスクリーンに映し出される映像は、一見コケティッシュだが、見る者を想像や感覚、日常生活や文化の身近な側面など、人間の深層心理に働きかける奇妙で不思議な世界へといざなう。見慣れたモチーフも近づいてよく観察すれば新たな発見がある。人生の魅力を教えてくれるかのようだ。
アレックス・ダ・コルテ《ゴム製鉛筆の悪魔》(2019年)© Alex Da Corte studio
ダ・コルテはコンセプチュアル・アーティストとして知られ、映像、彫刻、絵画、インスタレーションなど多様なメディアを駆使しながら、世俗的な消費主義、ポップカルチャー、人間の過ち、耽溺の苦境など、アメリカ中産階級の視覚文化をサンプリングし、超現実的なイメージを制作している。彼の作品は、2019年のヴェネチア・ビエンナーレや、2022年のニューヨークのホイットニー・ビエンナーレなど、数多くの国際的なイベントや展覧会に出品されている。また、デンマークのヘニング現代美術館やアンディ・ウォーホル美術館とのコラボレーションも行っている。
アレックス・ダ・コルテ《ROY G BIV(ロイ・ジー・ビヴ)》(2022年)「Alex Da Corte Fresh Hell アレックス・ダ・コルテ 新鮮な地獄」展示風景 金沢21世紀美術館 2023年 撮影:今井智己
《ROY G BIV(ロイ・ジー・ビヴ)》(2022年)は、虹の7色 ― Red(赤)、Orange(オレンジ)、Yellow(黄色)、Green(緑)、Blue(青)、Indigo(藍)、Violet(紫)のそれぞれの頭文字をタイトルにした作品。フィラデルフィア美術館の有名なコンスタンティン・ブランクーシ(1876-1957年)の部屋を模した場所で、マルセル・デュシャン(1887-1968年)に扮したダ・コルテが、人間の存在、時間、恋人との愛と別れなどをオムニバス形式で演じ分ける映像作品だ。会期中に7回、キューブの色を塗り変えるパフォーマンスも行われる。
]]>現在、彼の未公開のモノクロ写真や絵画など、最近発見された作品群を含む新旧400点以上の作品が、渋谷ヒカリエ9F・ヒカリエホール ホールAにて開催中(企画制作:Bunkamura)の展覧会「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」で8月23日まで公開されている。Bunkamura企画制作によるソール・ライター展は、今回で3回目。ソール・ライター生誕100年を記念して開催される本展では、彼が撮影した、1950年代から60年代にかけてのモノクロのニューヨークの街並みやスナップ写真、芸術家のポートレート、ファッション写真、カラープリント作品や絵画などを分類ごとに紹介。また、約11,000点のコレクションから厳選された未発表のカラースライド約250点が、初めて大型プロジェクションで閃光を放つ。
ソール・ライター《無題》撮影年不詳 © Saul Leiter Foundation
1946年、23歳になったライターは、当初画家を志し、父親の反対を押し切って故郷のピッツバーグからニューヨークに移住した。彼は1952年にニューヨーク5番街に自身のスタジオに居を構え、晩年まで60年近くそこで暮らした。彼は、そこで生活を営む人々を観察することに没頭した。終戦直後のニューヨークは、文化の新たな中心地として抽象表現主義などの芸術の新潮流が次々と生まれ、多くの野心的な芸術家たちを魅了していた。この地でライターは、意欲的な若い芸術家たちとの交流の中で、写真の表現メディアとしての可能性に目覚め、絵筆とともにカメラで自分の世界を追求していくようになる。
ソール・ライター《無題》撮影年不詳 © Saul Leiter Foundation
展示されたモノクロの写真は、物思いにふけるように見つめる少女を、ガラスに映る彼女の控えめな姿とともに写しており、行き交う人々の慌ただしさとは対照的だ。もう一枚は、明るい車の中で、ほとんど影のように深い色合いのドライバーを写したもので、背景には無名の店が写っている。どちらの写真も、静寂と喧噪の間、そして光と闇の間の時間の動きという、ある種の広がりをもって描かれた、当時のニューヨークのストリートライフを伝えている。モノクロ写真の多くは彼自身がプリントしたもので、労働者階級の移民が多く住むイースト・ヴィレッジで撮影された。
ソール・ライター《アンディ・ウォーホル》1952年頃 © Saul Leiter Foundation
ライターは、撮影活動を始めたころ、避難所と創造的表現を求めてニューヨークに集まった多くの前衛芸術家たちに囲まれていた。彼が写真の道に進むよう勧めたユージン・スミスを始め、アンディ・ウォーホル、ロバート・ラウシェンバーグ、マース・カニングハム、ジョン・ケージ、ダイアン・アーバス、アンリ・カルティエ=ブレッソン、セロニアス・モンクなど、彼が撮影した身近なアーティストたちのポートレートは、当時、爆発的なエネルギーで新しい表現が日々生み出されていたニューヨークのアートシーンの息吹を感じさせてくれる。同時に、彼の写真家としてのキャリアもさらに強化されていくこととなる。
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展覧会エントランス風景
最初の部屋では、シャガールが制作した「ラ・フォンテーヌ寓話集」(1952年刊行)のモノクロ銅版画100点のうち32点が展示されている。イソップ寓話で知られる17世紀のフランスの詩人ジャン・ド・ラ・フォンテーヌが1668年から1694年にかけて書いた動物や人間を風刺したユーモアあふれる内容のこの寓話は、フランスでは古典として今も広く愛されている。1927年にフランスの画商アンブロワーズ・ヴォラールは、シャガールの美意識、リアリズムとファンタジーの共存に心を奪われ、この寓話の挿絵としてシャガールに一連の銅版画の制作を依頼した。挿絵をよく見ると、シャガールはエッチング針を巧みに使って線や点を彫り、後にニスを塗って、葉や茂み、動物の羽や毛皮の模様にハイライト効果や豊かなグラデーションをもたらしている。陰影とクロスハッチ(碁盤の目のように線が交差したパターン)のテクスチャーは、さまざまな色調を想起させる。
マルク・シャガール「
このようなモノクロームの深いトーンのコントラストを象徴する挿絵のひとつが、「狼と母親と子供」だ。村人の家の前で待ち構えるオオカミに対する恐怖が、荒々しい陰影を通して感じられる。深い黒で刻まれた母親の姿は、泣き叫ぶ子供をなだめながら浮かび上がる。動物のテクスチャー技法は、「病気の鹿」、「猫と二羽の雀」や、「二羽の
マルク・シャガール「病気の鹿」(左); 「猫と二羽の雀」; 「二羽の
次の版画集「馬の日記」(1952年刊)は、ユダヤ系ドイツ系フランス人作家クレール・ゴルの物語に由来する。ゴルは左翼ジャーナリストで反戦活動家イヴァン・ゴルの妻であり、クレールとともにシャガールと共通の政治的関心を持っていた。共産主義ロシアでユダヤ人として育ったシャガールの生い立ちは、故郷ヴィテブスクとパリ、ベルリン、ニューヨークを行き来せざるを得なかった戦争の惨禍の暗い体験に染まっていた。戦争に同情的だった彼は、ロシアの民芸品や正教会のイコン、ユダヤ教の伝統を反映させたドローイングに自分のアイデンティティを刻み込んだ。「馬の日記」は、人間社会の残酷さや愚かさから生じる過酷な試練に巻き込まれた、擬人化されたパリの馬車馬の物語である。このような儚い状況は、シャガールの繊細な線と華やかな色彩の濃淡によって表現されている。
]]>高級家具の見本市、FIND-デザイン・フェア・アジアが、去年に引き続きシンガポールで開催される。第二回目の開催となる本年は、シンガポール・デザイン・ウィークの会期中にシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ・エキスポ&コンベンションセンターで9月21日から23日にかけて開催。350の国際的なブランドが出展予定。
シンガポールの決定的で象徴的なデザインイベントであるFINDは、デザインセクターの主要なグローバルプレーヤーと連携している。ミラノサローネを主宰するフィエラミラノ、デザイン・シンガポール・カウンシル、シンガポール観光協会とのコラボレーションを通じてこのイベントを行い、世界中から厳選されたインテリアブランド、エージェンシー、パビリオン、デザイナー、コンテンツの豊富なコレクションを紹介する。
シンガポールは、ここを拠点とする10,000を超える家具、インテリア、デザインブランドを擁する、アジアの真のデザインハブだ。アジア市場、特にASEAN自由貿易地域へのアクセスは、贅沢とデザインに対する飽くなき欲求で44億人の顧客にリーチする機会を提供する。広範な国際的な接続性とビジネスのしやすさで知られるアジアのトップビジネスの目的地であり、地域の金融ハブとしてのシンガポールは、高級な家具や装飾を好む消費者の本拠地でもあり、国内のインテリア市場に強力な機会を提供するだろう。
FIND – Design Fair Asia 2023
会期:2023年9月21日(木)〜23日(土)
会場:Marina Bay Sands Expo, Singapore
https://www.designfairasia.com
この展覧会は、“動き” が私たちの現実の一部であり、かつその帰結である、ということについて、より大きな全体像を示すことを目的としている。これについて、アーティストたちは、スキャン、幾何学的形状および線、爆発、量子反応などの態様で各々の解釈を表現している。ブラックホール、星形成、重力波のような複雑な現象は、これらの視覚的な動きの芸術作品を構成するために用いられ、宇宙物理学、量子力学、神経科学、認知科学、人類学、パフォーマンススタディーズが、動きや運動パターンのふるまいを定義するためのガイドラインとして使用されている。
池田亮司 「data-verse 1/2/3」(2019–2020年)オーデマ・ピゲ・コンテンポラリー コミッション作品、コンテンポラリー・コペンハーゲン(CC)「Yet, It Moves!」(2023年)インスタレーション展示風景
極めて複雑そうに聞こえるかもしれないが、作品自体は、実に明快で、視覚的に印象的で、情報やデータが豊富で、非常にグラフィッカルでダイナミックである。さらに、この展覧会では、ビジュアル・アートとサウンドの融合を探求する先駆的なアーティストたちの作品も展示されている。日本の池田亮司、アフロ・フューチャリスティックなクィア・ブラック・デュオのブラック・クォンタム・フューチャリズム、アルゼンチンの振付家兼ダンサーのセシリア・ベンゴレア、サウンドと没入型インスタレーションをも手がけるデンマーク人アーティストのヤコブ・クスク・ステンセンであり、さらに、コペンハーゲンの都市空間やCCで作品を展示してきたアーティストが数名加わっている。展覧会のタイトルは、ガリレオ・ガリレイ(1564-1642年)へのオマージュである。ガリレオは科学者であり、哲学者でもあり、『人の実感がどうであれ、地球は常に太陽の周りを動き続けている』という考えを表現する言葉を生み出した。
池田亮司 「data-verse 1/2/3」(2019–2020年)オーデマ・ピゲ・コンテンポラリー コミッション作品、コンテンポラリー・コペンハーゲン(CC)「Yet, It Moves!」(2023年)インスタレーション展示風景
洞窟のような空間に設置された3つの巨大スクリーンに、動きと音が同期する驚異的な作品、池田亮司の「data-verse 1/2/3」(2019-2020年)。池田はデータをソースとして、粒子の風景やコンピュータのようなスキャン結果を作り出す。実際、彼はCERN、NASA、ヒトゲノム・プロジェクトなどの科学機関からサンプリングしたオープンソースのデータを利用している。私たちが生きている世界と宇宙について私たちが知っていることのすべてがデータに基づいていると言える。私たちはデータを収集し、それを情報に変換して、私たちを取り巻く世界、私たちの頭上、そして私たちの内部を理解するために使用している。この驚くべきビジュアル・インスタレーションは、幾何学模様、デジタル・マッピング、グリッドなど、主にモノクロームのビジュアル・アセットを使用し、サウンド・デザインとの見事な同期によってすべてが強化された、穏やかでありながら渦巻くような雰囲気の中に、見る者を没入させる。サウンドは、「ブレードランナー」やディストピアSF映画のワンシーンから引用されたものではないかと想像する。特に、コンピューティング・データとインタラクトし、検索やスキャニングをする瞬間の音は、ビジュアル・データと同期するようにデザインされた鮮明な鐘のような音に対して、低いピッチの振動が対照的だ。これらのビジュアルは「ウォー・ゲーム」から着想を得て21世紀風にアレンジしたものかもしれない。池田は、ビジュアルモーションと作曲を手がける、日本で最も影響力のある現代アーティストの一人である。彼は国際的な展覧会に出展し、2014年にはアルス・エレクトロニカCollide@CERN賞などの権威ある賞を受賞している。
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