ミルク倉庫+ココナッツ
PEOPLEText: Noriko Ishimizu
ちなみにミルク倉庫は、2009年に結成した当初からメンバーは変わっているのですか?
宮崎:一人抜け、また一人抜けとなって、オリジナルメンバーは、今となれば、僕だけですね(笑)
ココナッツのお二人が加わってから、何か変化は起きましたが?
宮崎:ココナッツが入ったことで、以前よりも制作の幅が広がりました。それはキャラクター性だったり、趣味性だったり。あと、色が使われるようになったことも変化の一つです。ミルク倉庫は、力学や物質、物性というハードなテーマを扱っていたので、色を使うことに禁欲的な作品が多かった。ココナッツのメンバーにはペインターがいるので、加入後は作品がカラフルになりました。音楽家がいるので、音声の編集などもできるようになりましたね。
作品の発表場所について伺いたいのですが、ミルコ倉庫+ココナッツは、美術館やギャラリーのような場所以外での展示が多いですよね。
宮崎:いわゆるギャラリーはないかも。ほとんどないよね?(笑)
坂川:3331(アーツ千代田3331)は?
宮崎:3331はギャラリーだけど、もともと学校だから。
松本:リノベーションしたところだから、いかにもギャラリーというところとは違うかもしれないですね。
宮崎:あと個々でやっている制作も、ギャラリーで扱うことが難しそうなものが多いんですね。そういうことがあって、八丁堀のスペース(アトリエ兼展示スペース「milkyeast」)をつくったという流れがあったので。
難しいというのは、具体的には?
宮崎:作品に水を使うような物理的なことであったり、搬入や設営に過大な時間がかかるとか、その場で作らないといけないものであるとか。
松本:床に穴を開けたり、壁に穴を開けたりできるような自由度の高い場所を好むメンバーが集まっているということもあります。そういった場所性を組み込む作品を作っているということもありますが、ミルク倉庫時代から、「場所をつくる」ということもやっています。例えばアトリエを改装する際に、床が制作できない状態だったので、一回ハツって自分たちで床にコンクリートを流したんです。「場所から作品をつくる」ことや、その逆に「作品から場所をつくる」ことも重要な活動と捉えています。
AAICの場合は、どうでしたか?
宮崎:AAICはキューブという条件があるので、その条件を一回抽象化してコンセプトを練っていくのですが、制作する工程で「電気を通す」などといった非常に具体的な作業が現れてきます。僕らは自分たちのスペースを立ち上げる際、とてもボロいところで、使えるようにスペースを改装するという経験を通して知識も含めリソースを蓄えていたので、それが生かされた感じですね。
坂川:さっきもあったけど、立ち上げ時のスペースは、床がベコベコで。
松本:そう、ベコベコ(笑)。それで平面を出さないと作業場として使えなかったので、どうやって水平を出すかといったところも含めて、経験してきたことが、AAICの制作にも反映された感じです。
そういった作業って、すごく職人的な仕事ですよね。
宮崎:そう、職人がいる感じですよね。
松本:メンバーはそれぞれ、電気工事士、映像、エディトリアルデザイン、土木系技術、建築、音響、造園という専門性を持っていて。
AAICでは、その技術がどのように生かされたのですか?
宮崎:たとえば床の使い方が自由な場所だったので。
坂川:床の下に入れる小さな装置があったので、結果的に床全体を嵩上げすることにして、そこに装置を入れ電線を流したんです。
宮崎:僕らにとって、物理的なキューブの加工はもちろん、電気を扱えるメンバーがいたことは大きかったですね。メンバーそれぞれが技術的な部分において関心はあるんですが、特に(坂川は)インフラに対する関心があって。
松本:作品で電気を扱いたいから、電気工事士になったという経緯があるので、職人からアーティストになったというより、アーティストが職人としての技能を身につけた感じですね。
あと、彼(篠崎)には建築の知識があるので、キューブの図面をいただいて、どれくらいのピッチでキューブを支える垂木が入っているか、といった条件も考慮して進めていった面も含めて「設計した」と言っていいと思います。
では、皆さんは技術者集団ではなく、制作がメインのアーティストユニットという認識で大丈夫ですね。
松本:はい。制作がメインです。
西浜:ルネッサンス的なところを目指していて。
中世のギルドみたいな?
宮崎:そうですね。そして、アーティストと技術者が不可分であること。
西浜:レオナルド・ダ・ヴィンチも技術者じゃないですか。そこまで言うとかっこよすぎるけど。
松本:大きく出たな。
一同:(笑)
ただ、技術者として作業する場合、アーティストとは違ったアプローチになりませんか?
松本:抽象度の高いコンセプトを解釈してどうやって技術に落とし込むか、という進め方ではなく、技術もコンセプトに含めたアプローチを意識的にしています。ものの成り立ちや生成の仕方は、技術と不可分だと思っているので、それをどのようにコンセプトとして抽出できるかというところを意識的にやっているところです。
宮崎:それ自体がグループとしてのコンセプトでもありますね。
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