ミュンスター彫刻プロジェクト 2017

HAPPENINGText: Ray Washio

今回のミュンスターは特に、パフォーマンス作品に力を入れていたようで、歌舞伎をモチーフとしてパフォーマンスをしていたギンタースドルファー/クラーセンの「Erniedrigung ist nicht das Ende der Welt [Humiliation Is Not the End of the World]」や、アレクサンドラ・ピリチの「Leaking Territories」など身体表現の分野でのプロジェクトも際立っていた。

その中でも特に、高齢者へのタトゥーを割引きにするパフォーマンスを行っていたマイケル・スミスの「Not Quite Under_Ground」は素晴らしかった。タトゥーショップを舞台に、実際にタトゥーを入れている高齢の方がいて、パフォーマンスというより社会実験に近い感覚があったかと思う。

もともと、40年前にミュンスター彫刻プロジェクトが始まったのも、野外彫刻を設置した市とそれに反対する住民との対話がきっかけであった。保守的な田舎都市という認識を変えるために立ち上がったとも言われる。タトゥーという若者文化の象徴をモチーフに、ベルリンなどの文化都市に比べて高齢者の多いミュンスターという街でやることに意味があるのだ。実際にタトゥーを入れていた女性の方も、その様子を見ているギャラリーの人々も含めてにこやかな雰囲気に包まれていた。こんな穏やかなタトゥーショップはこの先も見ることはできないだろう。

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Hito Steyerl “HellYeahWeFuckDie”

ドクメンタなどに比べて、年配のお客さんが多い中、ヒト・シュタイエルのように若者からの支持を集める作家がセレクトされているのも興味深かった。彼女はヨーロッパを中心に理論家としての活動も有名なアーティストである。今回のプロジェクト、「HellYeahWeFuckDie」でも彼女らしい作風が見られた。人工知能をモチーフとした未来への警告ともとれる映像と、それによって構成されるインスタレーション。

住宅系組合であるLBSが1975年に建てたという建物の一階のホール全体で展開されており、建築の持つ近未来的な空気と彼女の作品が綺麗にシンクロしている。建物全体が彼女のためにあるような錯覚を覚えてしまうほどであった。また、この作品がユニークなところは、LBSの所有しているハインツ・マックを始めとしたコレクションも並列して展示されているという点だろう。そのため、空間を大きく使うことができるミュンスター彫刻プロジェクトとしては珍しい、他の作家の作品が同居している空間に仕上がっていた。そういう意味でもこの作品は記憶に残るものであったと言える。

アートの次なる展開を考える上で、ミュンスター彫刻プロジェクトは一つの重要な機会だと言える。10年後のミュンスターはどのようになっているのか。テクノロジーの進化一つ考えてみても、楽しみで仕方がない。実際、街を巡っている間、これが10、20と回を重ねていったときにミュンスターは野外彫刻だらけになってしまうのではないかと余計な心配をしてしまったことを思い出す。次なる10年を我々はどのように過ごせばいいのか。アートを超えてそんな日常の些細な考え事が頭をよぎるとき、私はミュンスターの価値を再発見するのであった。

ミュンスター彫刻プロジェクト 2017
会期:2017年6月10日~10月1日
会場:ドイツ、ミュンスター市内
https://www.skulptur-projekte.de

Text: Ray Washio
Photos: Ray Washio

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