ミシェル・ブラジー展「リビングルームⅡ」

HAPPENINGText: Shuhei Ohata

会場の銀座メゾンエルメス フォーラムはアートを鑑賞する為の空間だが、展覧会のタイトル通り居心地の良い居間のような空間へと作り変えられている。元々この空間自体がホワイトキューブ的な作りではなく、上質で開放的な空間だけに、カーペットやグリーンが置かれている方が違和感がない気がしてくる。日常とアートが自然と混じり合う環境を生み出す事で、見ることと観ること、私的なものと公的なものを鑑賞者は気持ちの赴くま行き来きできる空気が生まれていた。

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床から天井へと延びているカーペットに放たれたカタツムリたちが移動する際の分泌液の軌跡でできた絵画。一日中白い壁面に赤ワインを飲ませることで、壁をワインが侵食し、表情が変化し続けるもの。

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チョコレートやピスタチオクリームでできた下地をネズミがかじることで生まれる絵画。それらはブラジーが計画したイメージに沿って生まれた作品ではあるが、自己完結されたものではなく、自分以外のものとの共同作業によって成り立っている。こうした制作スタイルからも、自己と他者の領域を横断しようとしているようだ。

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ホウキモロコシの種をつけたほうきが鉢に植えられ、生育する様子。壁面を青色に染めた寒天が日光によって退色したり、剥がれていく様子。額装されたドローイングは、洗剤や漂白剤によって思いもしない効果を期待してできたものらしい。これらからは変化し続ける生命のサイクルを意識させられた。

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ブラジーの眼差しは日常を純粋な好奇心によって彩られいるからこそ、鑑賞者にも見る喜びや驚きを与えてくれる。そうして作品を味わった後から徐々に作品の背後にある美術の問題や社会の問題へと静かに導かれていく。だからいつまでもその余韻に浸っていたくなるのだろう、そう言う意味でも「パサージュ:フランスの新しい美術」で期待されたアートのあり方は今の時代にも充分有効なものだと言える。

ミシェル・ブラジー展「リビングルームⅡ」
会期:2016年9月16 日(金)~11月27日(日)
時間:11:00~20:00(日曜日は19:00まで、入場は閉館の30分前まで)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階
TEL:03-3569-3300
http://www.maisonhermes.jp/ginza/gallery/

Text: Shuhei Ohata
Photos: © Nacása & Partners Inc. Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

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