弘前デザインウィーク「りんご」

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

hirosaki_kimori_7167©ManabuAritsukaArchitectAtelier
© 蟻塚学建築設計事務所

りんご公園の入り口に、日常のデザインを感じさせる小さなシードル醸造所がある。白を基調に、りんご畑を眺めながら、気持ちよく作られたシードルが飲める醸造所の小さな建物は、当地で活動する建築家、蟻塚学の設計によるもの。「kimori」というこの醸造所は、弘前で獲れた農作物から、ここでしか飲めないお酒を自らの手でつくるという発想のもと、醸造免許の基準が弘前市だけ特別に緩められた国家特区の一環として開かれたもので、りんご農家自身が醸造から運営までを行っている。

hirosaki_kimori_press_19©kimori
© kimori

イラストであしらわれた手作り感あるボトルラベルのデザインやコミュニケーションデザインはAtoZ制作の中心メンバーだった当時青森県学芸員の立木祥一郎が起業したブランディング集団「teco」によるもの。津軽の人々がつくった新しい食と滞在のデザインである。

同じく国家特区を用いてワインを、ブドウ畑の開墾から自ら醸造までし、自身がシェフをするレストランでしか飲めないという食のクリエーターがこの街にはいる。

hirosaki_eat_sasamori©OsteriaEnotecaDaSasino
笹森通彰

イタリア料理店「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」のオーナーシェフ笹森通彰は、ふるさと津軽にこだわり、ワインのみならず、料理に用いる野菜のための菜園の運営や、ときには200キロ超のまぐろを近くの海で釣るなど、この地の自然と農の恵みを、独創性が味に反映するイタリア料理で創造を続けている。

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© オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ

地域の恵みを料理に変えるその力は、世界中の料理人からも注目を浴び、コペンハーゲンのレストラン「NOMA」からも協力の依頼が来るほどである。

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© 有限会社リンゴミュージック

既に街に根付いた創造性を次の発展につなげる「HIROSAKI DESIGN WEEK」。五感を構成するもう一つの感覚、音楽でも弘前の創造性をみせつけられた。春は桜が一面を覆いつくす弘前城。そこを会場に行なわれた「弘前音話祭」では、地元の少女たちが「りんご」のPRをテーマに結成し、全国のご当地アイドルシーンの先鞭となった「りんご娘」(写真)や、この音楽イベントを何気に撮影した市民による動画配信サイトへのポストを通じてカルト的な人気に全国規模で火が付き始めた超絶ドラムプレイのゆるキャラ「にゃんごすたー」が登場、その個性あふれるプレイが老若男女に楽しまれながら盛り上がる姿があった。

このように、街に住む人々が、この地からでたクリエイティブを愛し育む弘前は、戦禍にあわなかったため古い建物が多くあり、当地の素材をつかったスイーツが楽しめるカフェや、山海の恵みを楽しみながら酒が味わえる居酒屋など、季節を問わない豊かな時間が流れている。「HIROSAKI DESIGN WEEK」は、その豊かな恵みを、次の創造に結びつける材料を与えてくれている。

HIROSAKI DESIGN WEEK -RINGO-
会期:2016年10月9日(日)〜10日(月・祝)
会場:青森県弘前市(弘前市りんご公園、吉野町煉瓦倉庫、弘前公園、他)
主催:弘前デザインウィークコンソーシアム
TEL:0172-40-0494
協力:TOKYO DESIGN WEEK

https://www.city.hirosaki.aomori.jp/hdw/

Text: Tomohiro Okada

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