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第19回 文化庁メディア芸術祭

HAPPENINGText: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo

アニメーション部門優秀賞の「花とアリス殺人事件」は、映画監督・岩井俊二が手掛けた初の劇場用長編アニメーション作品である。作者が監督した2004年の実写映画「花とアリス」の前日譚という位置付になっている。2004年実写版を観たことがある人もしくは過去作のファンは、まず今作のやや物騒とも取れるタイトルに少々驚いたのではないだろうか。しかし、そこはさすが実写映画でその世界観に定評のある作者であり、「世界で一番小さい殺人事件」の謎を解く冒険というプロットの元、日常的でありながら澄んだ空気を感じる、爽やかで美しい作品に仕上がっている。

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岩井俊二「花とアリス殺人事件」展示風景

作者と言えば、今まで数多くの実写映画で映像技術・映像美を追究してきたことでも知られているが、今作では実写で撮影した動画をトレースしてアニメーションに描き起こす制作技法「ロトスコープ」と、セル画で制作されたアニメの質感を追求する「セルルック3DCG」の手法を組み合わせ、アニメーション作品を作っている。これまでロトスコープで作られた映像の動きに妙な生々しさを感じることも少なくなかったが、今作では、人物の動きのリアリティや躍動感を生み出すのにこれ以上無い効果を発揮しており、そこに至る莫大な試行錯誤を想像する。今後とも「作者には実写映画のみならず、アニメーション作品にも挑戦し続けていって欲しい」、そう思わせてくれる作品であった。

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Natalia CHERNYSHEVA「Deux Amis」(Two Friends)展示風景

アニメーション部門の新人賞を受賞したナタリア・チェルヌショーヴァの「Deux Amis」(2人の友達)は、時には助け合った同士が、それぞれ異なる環境で生きる物同士である場合、相手については本当には分かってあげられない部分があり、それによって大きな誤解が生じ、それぞれが想定しない結末へと向かっていくということを、オタマジャクシとイモムシのやりとりで絶妙に表現している。アニメーションの表現は葛飾北斎や歌川広重から影響を受けたものだというが、全編手書きの雰囲気でキャラクターはとても可愛らしく、カエルの一つ一つの動き、ミノムシの寝袋のデザインにもセンスが光る。世相を動物に置き換えてストーリーとして表現するところは手書きの雰囲気も相まって、まるで動く現代の鳥獣戯画のようである。

例年に比べ、会場内では海外からの来場者も多数おり、この芸術祭は海外からの注目を浴びているようだった。今年の受賞作品はLGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ジェンダークィア)をテーマにしたものや実写を素材としてアニメーションに落とし込んだものなど、作品がリアルとの様々な関わり合い方を通じ、新たな表現を見出しているものがいくつも見られた。作品の紹介の中でも記述したが、受賞する作品は必ずしも最先端の技術を駆使したものだけが選ばれているわけではなく、様々な評価軸を持って評価しており、そして、その選び方をもって、クリエイター、アーティストに新たにこれからのメディア芸術の行く先を問いとして投げ返しているようにも思える。今回のメディア芸術祭では、その双方のやりとりが垣間見える雰囲気を感じることができた。

第19回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2016年2月3日(水)~14日(日)
時間:10:00~18:00(金曜日は20:00まで、入場は閉館の30分前まで)※2月9日休館
会場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
その他会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、スーパー・デラックス、セルバンテス文化センター東京(※時間、休館日は会場により異なる)
入場無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
TEL:03-5459-4668(文化庁メディア芸術祭受賞作品展インフォメーション/9:00〜20:00)
https://festival.j-mediaarts.jp

Text: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo
Photos: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo

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葛西由香
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