アドリアン・M/クレール・B

PEOPLEText: Aya Shomura

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“Pixel”, 2014, © Raoul Lemercier

ピクセル」のテーマは何なのでしょうか?

クレール:「ピクセル」は、私たちがヒップホップダンスの振付師ムラッド・メルズキに出会い、1一人のアマチュアダンサー用に初のショートパフォーマンスを制作したのちに、誕生しました。それは、本当に楽しく、エネルギーに満ちた時間でした。だから、プロのダンサー達と、何かもっと大きな物を作り上げることを決断したのです。私たち3人に一つだけ共通していたのは、錯覚の概念によりワクワクしていたということでした。デジタルツールが起こす錯覚や、ヒップホップダンスで使われる錯覚です。私たちは現実と仮想を一体化させ、認識をぼかし、「不可能」であるはずのものがどこからともなく現れるように見せようとしたのです。また、ダンサー達も自身の肉体を使って、全く同じことを実行してくれています。時には液体、ある時はロボットのように動く腕。加速度的に動かしたり、スローで動かしたり。どちらの場合も、時間と空間の関係は変わり、歪められます。

アドリアン:「ピクセル」は、多くの芸術分野が統合した、遊び心満載のパフォーマンスなのです。観る者にとっては「現実かそうでないのか」が常に判別のつかない、詩的で夢のような空間の中で、ダンサーは進化を見せます。

お二人は、よく他のパフォーマーやダンサーとコラボされていますよね。将来的に誰かと仕事をする予定はありますか?

現時点で、主に私たちは自身の作品に取り組んでいます。少なくとも今後2年間はそのつもりなので、新たなコラボの予定はありません。

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“Le mouvement de l’air”, Elastique, show, October 2015, © Adrien M / Claire B

今年10月に上演予定の「ル・ムーブモン・ドゥ・レー」(空気の動き)について、少し教えていただけますか?

クレール:はい。この作品は、投影映像で没入型環境を作り上げ、その中で3人のダンサーが踊る全く新しいステージです。私たちがこれまでに取り組んできた中でも、最大のプロジェクトなんですよ!
パフォーマンスは、一見不可能な光景と融合します。身体が舞い、重力に逆らう一方、全体的な図は生き生きとして見えます。アクロバティックとデジタルの演出は、時間と空間、そして全世界との新たな関係を意味するボディランゲージを補っています。技術的な成果を求める以上に、このプロジェクトの本質は、動きそのものを内包する夢のような情景を映像を介して描き出すことです。テーマは空気と、関連する全事象の仮想です。無重力、垂直、サスペンション、空、雲、拡散、落下、空虚、フロア、支え、勢い、錯覚、非現実、脱物質化、明るさ、重さ、裏返し、上下逆さま、振動、風、呼吸、放棄、重力、霊界、夢…。

アドリアン:僕らは、スクリーンから映像を取り出し、それを風景へ、そしてパフォーマーのパートナーへと変えたい。そして最後に、それを空間マッピングの核としたいんです。このステージのセットは、三面構造により成り立っています。白いガーゼと白のダンスフロアという2つの垂直パネルは、非対称に結合され、没入型投影システムを作り出しています。この舞台装置のおかげで、多種多様な領域が実現できるのです。

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“Le mouvement de l’air”, Tornade, show, October 2015, © Adrien M / Claire B

クレール:3人のパフォーマーは、ステージ上の空間を浮遊します。縦の力に引っ張られ、彼らは情熱と苦悩の間、つまり立ち上がるか倒れるかのはざまで揺らぐんです。3人の肉体は、ありふれたものからインスピレーションを引き出す、斬新で突飛な言語を表現していますが、それを伝えるのは詩的な方法です。この言語は現実と交差することで、肉体が抽象概念と感情のあいまで進化する、生けるキネティックアート(動く芸術)の限界を模索します。これは、動かずにはいられない夢幻症の探求なのです。
投影するイ映像のほかに、リフトアップ機器とサスペンション装置により、特殊な仕掛けなしに体を空中に持ち上げています。ダンサーたちは体重と床とのバランス感覚に頼り、架空の空中軌道を見つけ出し空間で演技をします。肉体の動きは可能な領域を越えて、イメージという実体のない不可能の領域へ達します。

アドリアン:細かいことですが、僕らのステージは文字に基づいていないということが重要なポイントなんです。ステージにおける視覚言語は、動画、肉体、空間と音の組み合わせに基づいているのです。今日、デジタルテクノロジーは従来の演劇法を揺るがしています。だから、僕らは新大陸で探検をしているようなものです。自分たちが舞台を作り上げていく行為、いわば「領域に痕跡をつける」行為を「ライティング」(writing)と呼んでいます。ランドアートって、自然と自然が持つ力と戯れる芸術ですよね。それに似た精神で、僕らにとって演出とは、それぞれの要素を使って「書く」ということなんです。しかし、ここでは、炎、雪、砂、水、煙や岩はデジタルであり仮想です。つまり、より新しいアニミズムの担い手です。ですから、デジタルの力を集約して、そのエネルギーを導く。そして、投影するイ映像で動きのコア部分に意図を持たせ、リズミカルな作品を作り上げる、ということなんです。

Cinématique - Janvier 2010 - Hexagone © Raoul Lemercier
“Cinématique”, Hexagone, show, 2010, © Raoul Lemercier

最後にお二人が、現在興味を持っていることを教えてください。

テクニカルな面では、僕らはVRとARセットで作業をするので、ホロレンズデバイスに非常に興味を持っていますね。あとは、跳躍運動とオクルスの組み合わせも非常に興味深いです。
芸術面では、まだ秘密ですが、非常に素晴らしいものを準備中です。そして、いつものように、新しい美学の領域とメディアの探求には非常に広くアンテナを張っています。

Text: Aya Shomura
Translation: Ayana Ishiyama

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