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五木田智央展

HAPPENINGText: Taro Masushio

15全ての絵において顔が識別できるものは一つもなく不気味という領域を軽く超えてしまっている。だがそれと同時に、そしてまた興味深いことに「ある絵画の喜び」というものを引き出す魅力もここにある。それはこの長方形が紛れもなく絵画であるということを宣言し、個が優雅なモノクロや流れ落ちるペイントによって作られた繊細なラインの誘惑に吸収され己を失う可能性という喜びを与えてくれる。

無数の文化的レフェランスは衣類や姿勢の選択、ならびに既成のテクニックの画体上流用、具体的に言えば全体的に暗いトーンや激しいコントラストの流用によって明確にされている。キャプティブ・バニーで分かりやすく見て取られるように、特にタイトルと照らし合わせると紛れもないレフェランスが浮かび上がってくる。

五木田智央
Captive Bunny © Tomoo Gokita

「キャプティブ・バニー」は大胆にフィルムノワールのテーマを使用し、劇的なシーンを作り上げている。スーツとネクタイで彩られた明らかに男性的な犯罪者の図と過度に性的な(バニー)スーツの女性が重ねられているそれは、愛と死は溢れ返りほぼ交換可能、がしかしセックスは絶対的に不可欠な徹底したドラマだ。だが容易に識別可能なレファランスは、画家の手によって捩られ、そのプロセスにおいて他のものとなる。

これらの絵はフィルムノワールの様に外見上メロドラマ的であるがそれだけではなくクラシックもののローテク・サイエンスフィクション、例えばメトロポリスの様に多少メタになり、単なる流用、そして歴史・美術史の授業の領域を超えたレベルで文化現象を理解するための手がかりを提示している。

五木田の歪んだイメージと操作されたアイコンは記号と図の関係を乱し、逆にこの分離点の非晶質的な可能性と曖昧さを重視している。そこでの記号は起源となるものだけではなく、それが何者になるかの過程を示している。そしてそれは果たして何になるのか? それは私には分からない。が、それはさほど重要ではない。というのはそれは架空のエンドポイント(それが不易な何であるか)を示すということは重要ではなく、イメージが取り留めの無い物である(それは常に何かになりつつある)という性質自体を明確に表しているのだ。

過去からの画像は、凝固したものではなく、むしろ、可鍛性もあり、脆弱でもあり、不定数変更される。おそらく今日ではなおさらであろう。進化する技術が身近になるにつれ、画像は加速された速度で設計、処理、循環し、そして新たな文脈に埋め込まれていきそして、それは繰り返される。このような変化、そして現状を五木田のような作家は敏感に観察するだけでなく、積極的に作成しているのかもしれない。グラフィックデザイン、ジンを含み多数のプロジェクトを経た彼が次にどのような進化を遂げるかが楽みだ。

日本での五木田の個展は2014年8月にDIC川村記念美術館で開催される予定。

Tomoo Gokita Exhibition
会期:2014年1月11日~3月1日
時間:10:00~18:00(日・月曜日休廊)
会場:Mary Boone Gallery
住所:541 W24th Street, New York, NY
TEL:+1 212 752 3939
http://www.maryboonegallery.com

Text: Taro Masushio
Photos: Courtesy of the artist, Mary Boone Gallery

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