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ユージニア・リム

PEOPLEText: Joanna Kaweckia

メルボルンやオーストラリアにおけるアートや建築のコミュニティについて、どういったところが特に素晴らしいと思いますか?

私はここメルボルンの意欲的な態度に感心させられています。世界中でも最もお金のかかる町であるがゆえに、私が知っているどのアーティストやデザイナー、建築家、ライター、創作活動をしている人々でも、いくつもの仕事を掛け持ちすることで活動を続けています。そのような中でもアーティストたちは作品を作ったり、本や雑誌の出版、展示会をキュレートしたり、一時的な構造物や一日だけのイベントをデザインしたりすることができています。そこではお互いに様々な影響を受け合い、皆が各プロジェクトを一緒に行ったりして、それが続いていくのだと思うのです。

ここメルボルンにはそれぞれにしっくりとくる場所があり、コミュニティの中にさらにコミュニティが形成されていくのです。たまに圧倒されて、誰も彼もがアーティストのように感じてしまうこともありますが。でもそれは、いずれは自分がその一部となるコミュニティを見出すか、もしくは自分で作ってしまうかのどちらかだということです。一つのことに専心している英雄のようなアーティストや建築家の神話は、私たちや私が大好きなアーティストにはあまり相応しくないと思います。

ここにあるアート、建築そしてデザインに関して言えば、同様に定義し難いものや、角がかすんでぼやけたようなものがすごく良いと思います。例えば、ジョゼフ・L・グリフィスがメルボルンのドックランズなどで制作した “即興建築” や、最近のアクション/レスポンスのシリーズはダンス・マッシブというイベント期間中に特定の土地向けに制作されたもので、ダンスやパフォーマンス、建築、サウンドやビジュアルアートを含んでいます。

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© Eugenia Lim

最近見たり、読んだりしたなかで惹かれたものはありますか?

先週観た「No」という映画(パブロ・ラライン監督、ガエル・ガルシア・ベルナル出演)ですね。この映画は1988年のチリでの国民投票に対するキャンペーン運動が主題であり、ピノチェト独裁政権の反対陣営が毎日テレビで15分の放送枠を与えられ、“No”キャンペーンを展開するのです(有権者にピノチェトへ投票しないよう勧めるためにですね)。ベルナル演じる若き広告界の指導者の話が流れるのですが、彼は楽天的かつメディアに通じたやり方で独裁政権を転覆させようとするのです。

15年ものに間ピノチェト政権下で起こった暴力や悲しみというよりは、希望とユーモア溢れる場面を展開させて彼の話を伝えていました。現代の映画でありながらこの作品はビデオで撮影されていて、私が見る限りでは恐らく80年代に使われていた技術と同じものだと思います。映像は歪んで、一度色あせたような感じですが、色に関しては、各色が近い感じで鮮やかに見えてすごく美しいと思いました。まさにこの作品は素材と選択された様式がぴったり合っている見本だと思います。

Text: Joanna Kaweckia
Translation: Yuki Mine

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