アンドレアス・ムルクディス

PLACEText: Kiyohide Hayashi

アンドレアス・ムルクディスがスペースをこの下町的なポツダマー通りに移転したのは2011年のこと。それまではベルリンの中心部にあるミッテ地区に店舗を構えていた。ミッテ地区は多くの観光客が訪れる場所であり、住環境や交通の便の良さから生活に余裕がある人が多く住んでいると言われる。

一方で現在の店舗がある場所は交通の便が良くなく、ポルノショップやカジノなどある猥雑なところだ。高価なものを販売する意味で最適な場所とは言えないだろう。しかし彼にとってはそれは杞憂のようだ。既に多くの顧客がおり、周辺のギャラリーから流れてくる訪問者も多い。一方周りのギャラリーにとっても状況は同じで、「アンドレアス・ムルクディス」から多くの訪問者を得ている。このように双方にとって良い相乗効果が生まれているという。

opening3.jpegAndreas Murkudis
Le Cabinet de Curiosités de Thomas Erber

そもそもポツダマー通りにギャラリーが集まり出したのは2010年の終わり頃。以降多くのギャラリーがこの地に移り、今ではベルリンのアートシーンにとって最も重要な場所と言われるまでになった。しかし、それまで文化の空白地であったこの場所が盛り上がりを見せた理由は、ギャラリーの移転だけでない。美しいものを取り扱う「アンドレアス・ムルクディス」の移転は、このエリアを魅力的なものとした。なぜなら、一つの枠組みに捉われることのない新しい文化交流が生みだすからだ。

ひとたびギャラリーが展覧会のオープニングレセプションを開き、「アンドレアス・ムルクディス」がイベントを開催すれば、相互の客が混じり合い様々な出会いが起こる。つまりこの小さな百貨店は、その店舗の中に閉ざされることなく、現代アートとも混ざり合っているのだ。このような化学変化とも言うべき広がりと繋がりこそが、新しい文化の中心地に大きな活力を生み出している。

今一度ベルリンのアートシーンについて考えてみたい。それを考える上で最も重要なのは多様性であると同時に、それぞれの領域を隔てることのない境界の無さだ。アートシーンは絶え間なく貪欲に新しいものを求めている。新しい今の時代の芸術は、限界や境界があっては成立しない。

多くのギャラリーが1990年代、2000年代にベルリンのアートの中心地であったミッテ地区を去ったのは、観光地として洗練されていくと同時に、活力を生み出す多様性を失ったことが大きな理由だと説明する。今ポツダマー通り界隈を覆うのは新しい何かを生み出す可能性だ。その中心に多様性や領域横断をコンセプトとした「アンドレアス・ムルクディス」の存在があることは言うまでもないだろう。

Andreas Murkudis
住所:Potsdamer Strasse 81E, 10785 Berlin
営業時間:10:00~20:00(日曜定休)
TEL:+49 (0)30 6807 98306
shop@andreasmurkudis.com
http://www.andreasmurkudis.com

Text: Kiyohide Hayashi
Photos: Courtesy of Andreas Murkudis

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