岡部昌生

PEOPLEText: Kenta Torimoto

岡部の創作は、昨今の現代アートの表現に見られるような、スペクタルなインスタレーションや、コンセプチュアルに寄り過ぎた表現はなく、人間が手に触れて感ずる表面を紙の上に鉛筆で1ストロークずつ擦りとっていく、極めて地味で手間がかかる作業の繰り返しである。しかしだからこそ、文字も映像も全てデジタル化され、かつソフトウェアでいくらでも編集できる現代において、彼の表現は人々や街の歴史、記憶、人間の営みの痕跡を可視化する表現方法として、鑑賞者により強い印象を与えている。

岡部昌生

岡部さんの作品は非常にシンプルですが、その力強さは積み重ねてきた時間からくるのではと思うのですが、歴史や時間といったものを可視化するというところもありますね。

技法にしても素材にしても、美術の考え方にしても、そのシンプルさが意外と多彩多用に展開でき、力を持ち得るのだと思います。シンプル故に共感や共有してもらえるということもあると思います。

作品や制作のスタイルが変わっていくアーティストも多いと思いますが、岡部さんは今のこのスタイルを始めたときにこのような形で展開していくことは予想していましたか?

予想はしていませんでしたが、ある決断を持って出発しました。それは自分の中でのある挫折感からなのですが、失ったことによって生まれてきたエネルギーが持続したのではと思います。ブレないような意識というものは、自分の中にそぎ落とすようなシンプルさを求めていったことで生まれたのかなと思います。

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「色は憶えている」岡部昌生, 2012 CAI02

その挫折感を経て決断したというのはいつ頃ですか?

1977年です。それまでは記録というものをテーマに版画や絵画的な表現をしていたのですが、それでは自分の考えている時代を写すことができないと感じ、一切を捨てざるを得なかった。それで自分が立っているその場所を刷りとることをはじめました。それが77年のフロッタージュです。その2年後にパリで自分の滞在日記のようにフロッタージュで作品を作っていたのですが、滞在生活を送るうちに、日常的な平和な暮らしのなかに、街の歴史や事件があったことに気付きました。それを知った時に都市は大きな判であるということを獲得し、それから色々な都市のフロッタージュを制作していったのです。

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