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TWSクリエーター・イン・レジデンス・オープン・スタジオ トーキョー・ストーリー 2011

HAPPENINGText: Yu Miyakoshi

スイスから来たナディア・ソラーリは、身のまわりのものを使って、絶妙なセンスでインスタレーションにする。そこから生まれてくるのは、身近で、でも日常には絶対ありえないような風景だ。沢山の食パンにフォークを刺した作品や、いかにも美味しそうな、卵の黄味を連想させるような作品。ポップな色の平面を組み合わせた立体作品。現代アート特有の不可解さをまとっているけれども、とても興味をそそられる、という作品を作っているソラーリ氏に、どのようなことを考えて制作をしていたのか尋ねてみた。

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ナディア・ソラーリ「should wake up and bloody well look sharp」2012 © Tokyo Wonder Site

『この作品では、売ることや買うこと、つまり「消費」に焦点をあてました。日本に来てから私は、「買わなきゃ、買わなきゃ」という強迫観念のような気持ちを抱かせされました。きれいなショーウインドウやお菓子の広告、食品サンプル、きらきらしたイルミネーションやディスプレイ。何もかも完璧だけど、それはどこか、壊れやすいもののように感じました。例えば、アイスクリームみたいに、やがて溶けてしまう物のように。この作品では、そういった儚さやアンバランスさを表現したかったのです。』

そんなソラーリ氏に、「あまり買い物はしませんでしたか?」とたずねると『もちろん買いましたとも!』とユーモラスに答えてくれた。ソラーリ氏にとって東京の過剰に購買欲を刺激するという側面は、決してネガティブに片寄ったものではなく、ネガティブとポジティブ、両方の側面を持ったニュートラルなものだという。ソラーリ氏はいまの「TOKYO」を飲み込み、それを決してシリアスになり過ぎることなく、どこか愛らしさを残したものたちの姿に変えて、私たちに見せてくれた。

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岩井優「ホワイトビル・ウォッシング」2012 © Tokyo Wonder Site

強い生命力に溢れていたのは、日本からカンボジアへ派遣された岩井優(いわいまさる)の映像作品「ホワイトビル・ウォッシング」。そこに映されていた集合住宅は、1960年代に建てられ、1970年代のカンボジア内戦で全住民が強制的に退去。そして内戦後は住民が戻ってきたが、家賃が安かったこともあり、すっかりスラム化してしまったという場所だそうだ。昼は子供たちのはしゃぐ声や近くのカフェのにぎわいが聞こえてくるが、夜ともなればドラッグの売人や娼婦が目につく。

この光と影の色濃い場所に岩井氏は住み、アーティストとして制作を行った。そして付き合いも増えてきた住人たちに、身ぶり手ぶりで掃除をするというアイディアを伝え、その様子を撮影した。生き生きとした光と影や水の流れからは、人間臭い生活の営みがこれでもかというほど感じさせられ、後半のどんどんゴミが洗い流されていく様子には、爽快感がともなう。住人の方たちは、この掃除にかなり能動的に参加してくれた。「きっと、きれいになっていくのが嬉しかったのでしょうね。」と岩井氏は言う。また、まっ暗な展示室の角と天井の梁(はり)を生かして投影された映像は、映像を本物の建物の内部に見立てていて、迫力があった。そんな岩井氏に「アジアの人にも負けないパワーがありますね」とお伝えすると、「全然、負ける気がしないですね!」と笑いながら答えてくれた。

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