オープンリールアンサンブル
PEOPLEText: Yu Miyakoshi
当時はバンドの楽器としては使っていなかったのですか?
難波:3~4人で即興の演奏をする時にリールで遊んだりしていたことはありました。
吉田(悠):その時は飛び道具みたいな感じで、ちょっとセッションに加えてみようとか、そんな感じで。
和田:その道具、つまり録音機自体を中心に演奏するっていうのが、今のプロジェクトです。
最初にプロジェクトにオープンリールを取り入れようと思った時から、オープンリールを使って音楽を作ろうというイメージはあったのですか?
和田:音の出るものなので、最初からこれは楽器だろう、みたいな感じでした。それでこれを楽器として、どれだけ使えるか、みたいなところから始まっているんだと思います。それから、「オープンリールアンサンブル」という名前がでてきた時に、一つの風景を見ちゃったんですよね。僕らが音楽を作る仮定では、風景や作り話みたいなものが、曲やパフォーマンスをつくる土台になっていることがあって。それは、他愛ない会話の中に混じっていたり、妄想として膨らませていたり。
その風景というのはどのようなものだったのですか?
「オープンリールアンサンブル」そのもののイメージに関しては、例えば・・、冒険家がアマゾンのような奥地で茂みをかき分けていくと、向こうから不可思議な音色が聞こえてきて、どうやら、そこに住む人々によるお祭りが始まっている。冒険家が双眼鏡でよく見てみると、複数の人が座り込みながらオープンリールテープレコーダーを演奏している。なんでこんなところにオープンリールが?こんなところで?、と冒険家は驚きながら、演奏を終えた長老に話を聞いてみると、どうやら、歌を録音するために訪れた人類学者が落としていったものを拾ったのだそうで、その人類学者は森の中で運悪く野獣に襲われ、すでに白骨化した死体となっていた。彼らはその死体の隣にあったオープンリールをたまたま見つけたらしく、恐る恐るスイッチを入れていじくり回すと、内蔵のスピーカーから音が出たので、一種の楽器のようなものだと解釈したそうだ。更に、壊れた時のために学者が持ってきていた大量のオープンリールと発電機が彼の船に残されていて、そのことがカオス理論的に影響して、複数のオープンリールでアンサンブルを行う表現が生まれたらしい。その人たちは、それが古くから伝わる「時間を司る円形のアルコトルプルコ」だと信じて疑わない様子だった。その光景を見て「ハッ」とした冒険家は、故郷のドイツに戻ると、早速友人たちを集め、テレフンケンのテープレコーダーによるDJユニット、ザ・テレフンケンズを結成したのだった…。その頃、遠く離れたベトナムのホーチミンでは、今日も極度に変形した磁気ヘッドのオープンリールが、カオダイ寺院の中でクルクルと回っていた・・。
おもしろいストーリーですね!音楽をやっている方から、「物語」が出てくるというのが驚きです。
難波:物語は、語る人や毎回の思いつきによって、その都度ころころ変わるんですけどね。和田君の場合は多分、イメージが映像で出てくるから物語になっちゃうんですよ。でしょ?
和田:どこかにいて体験している感じ。そこに流れている音楽、みたいな。でも音楽ってそもそも物語を感じさせるし、風景と結びついていることって多いのかなぁ。そういった意味で、物語の中にいるような感覚がありますね。
それが例えばアマゾンのイメージだったりするのですね?
和田:そうですね。ありえるかも、というところがミソなんですけどね。そういうことが起きていたとしても、なんら不思議はないという。例えばこう、「ハッ」と目覚めたら記憶が無かったりして、どこだろう、って見回すと水平線があったりして――、これは先日僕らがリリースした「Tape To Tape」にも絵が載ってあったりするんですけど。これは吉田(悠)君のイメージだよね?
吉田(悠):話の中から出てきたようなものですけどね。例えば海の水平線から、巨大な石碑がそびえ立っている。
和田:こう、ゴ――・・、と生えてくるんですよ。
難波:そう、見てたらなんか――
吉田(悠):だんだんせり上がってくる。
和田:スピードもそれなりのものがあって。
吉田(悠):ゴゴゴゴゴ・・。
吉田(匡):それで、よく見たら上にオープンリールが乗っている。
そういったイメージから音楽が生まれてくるのですか?
吉田(悠):――から、なのか。
和田:同時、なのか。でもやっぱり、オープンリールって異世界っぽかったんですよね。どこかで魔術として使われているとか、そういったイメージが想起させられたりして、そこから浮かんだ音をそのままオープンリールで演奏するという。それでその時に、捨てられた「エレクトロニクス」が、楽器に変形して「エレクトロニコス」になるんじゃないかなって。
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