飯沼英樹

PEOPLEText: Yuko Miyakoshi

色彩のポップな印象などから、海外では日本のポップ・カルチャーを連想されることもあるかと思うのですが、飯沼さん自身はアニメや漫画などのカルチャーから受けた影響はありますか?

確かにフランスではそういう反応を受けたこともありましたが、僕自身が影響を受けているというわけでないですね。ヨーロッパで勉強した時には周りにアンチポップな考え方が流行っていて、僕自身も漫画やアニメというより、別な方向に掘り下げた表現を理解してもらいたいと思うようになりました。

2011-02-frontline.JPG
TOKYO FRONTLINE 「スナイパーシリーズ」展示風景(東京/2011)

日本デビューとなったアートフェア「TOKYO FRONTLINE」での展示、その後の個展「美女」にはどのような思いで臨まれましたか?

TOKYO FRONTLINE の時には、アートフェアという場で何か事件性を盛り込めるんじゃないかと思い「スナイパーシリーズ」という名前をつけました。街での撮影は相手に気付かれるか気付かれないかの瀬戸際がけっこうスリリングです。でも小さなカメラで隠し撮ったりすると犯罪にひっかかるので、ちゃんと一眼レフをかまえて、僕は写真を撮りました。お洒落した格好を見られたいという女性達の願望、街でお洒落な人を見たい願望、その視線を彫刻という形にしました。街で「狙撃」した一般女性をランウェイで歩かせる展示方法によって一つの解決をみたと思っています。

「美女」展では、 僕自身の女性性をセルフポートレートする方法によって美女を表現しました。女性が大好きな男性的な自分と、女性の美しさに嫉妬している女性的な自分がツイストすることで、女性らしさを演じたり、男性らしさを演じるような役割を求められる社会、または男性化する女性、女性化する男性、といった現代社会をあぶり出すことができるのではないかと考えました。

僕自身はすごく男性的でマッチョな気持ちでモデルを選ぶこともあるし、反対にレディーファーストを徹底した女性礼賛みたいな気持ちで作品に向き合うこともあります。青山悟さん(現代美術家)とのトークショーの時に、「女装癖はないの?」とか言われたりもしたのですが、 女性になりたいというわけではなくて、女性性を追求していくことで女性的になっていくというよりは、それぞれの性を意識して作品化していく感じです。

2008-Narrow-mountain%20-H68x17x17cm-camphor.JPG
「Narrow mountain」H68x17x17cm (2008)

飯沼さんがモチーフにされているものの一つに「消費社会」がありますが、それは飯沼さんにとって重要なモチーフですか?

そもそも世の中に出回り読み終わったら捨てられていく雑誌は消費社会を象徴しているんじゃないかと思うのです。その中でも、ファッション雑誌は一時のブームで刷られては破棄されていく。ファッションそのものの華やかさに惹かれるというよりは、切り捨てられていく「はかなさ」のほうに魅力を感じるところがあります。それと同時にモデルたちも歳をとったら捨てられていく、という女性のはかなさもあるし、「美」というもの自体がそういうものだと捉えられます。
 
でも2月にTOKYO FRONTLINEが終わった後、消費社会をモチーフにすること自体が時代遅れなのではないか、という気がしてきたました。直前にエジプトでフェイスブックによる革命が起こって「消費」よりももっと大変な時代が来たと感じました。その後の震災で価値観が根底から覆されるようなことがあったので、消費社会という言葉がしらけて聞こえるのかもしれませんね。

続きを読む ...

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE