「ベースド・イン・ベルリン」展

HAPPENINGText: Kiyohide Hayashi

本展覧会の一番の特色は、参加アーティスト・グループとしてベルリンにあるオルタナティブ・スペースが加わっていたことかもしれない。ベルリンには無数のスペースが存在するが、今回はオートセンターPMギャラリーギャラリー・イム・レギールゥングスフィアテルアフター・ザ・ブッチャーの4スペースが紹介されている。各スペースとも多数のアーティストが参加していたが、彼らの名前は公式出品作家としてアナウンスされておらず、各展示スペースを構成する一要素として登場しており、展示の中に展示があるという入れ子構造になっていた。

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Autocenter / Adrian Jeftichew, based in Berlin 2011 Photo: Amin Akhtar

4スペースの中でも特に強い印象を与えていたのは2001年にアーティストたちによって設立されたオートセンターだが、今回はベースド・イン・ベルリンの中に展示スペースを移設するコンセプトで参加しており、会期中にも幾つかの展覧会を開催していた。彼らの特徴としてはキュレーションの枠組みに制限されない多彩なアーティストの紹介にあり、展示された作品では本体の企画に比べると質の低いものが見られたものの、混沌とした知識に振り回されない本能的かつストレートな見せ方にベルリン・アートシーンの未来が垣間見えたように思う。

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Autocenter / Gruppenausstellung kuratiert von Max Henry, based in Berlin 2011 Photo: Amin Akhtar

今回の企画においては、ベルリンの若手アーティストを紹介するというテーマの下に80を超えるアーティストやグループ、アート・スペースが作品を出品していた。そして無数のアーティストがベースド・イン・ベルリンの中のオルタナティブ・スペースで展示され、また毎日のように公式のイベントが行われ、コンサート、パフォーマンス、レクチャーなども開催されていた。

これらを鑑みれば、企画者以外には把握できないような大規模かつ境界無き曖昧糢糊な企画であったとも言えるだろう。いずれにせよ作品を見る限りにおいて、世代やベルリン在住以外の共通点を見つけることは難しく、多くの来場者は会場でこの街のアートシーンの「現在」を断片的に垣間見ることができたのかもしれない。しかし、このような混沌とした姿は、ある種本来のベルリンの姿でもある。この街の持つ多様性は、中心無き、また境界無き混沌によって生み出されているといって間違いなく、それを反映したという意味では今回の企画は非常にベルリンらしいものだった。

ただし、この混沌が果たして今の硬直するベルリンのアートシーンに何をもたらしたのだろうか。美術館やギャラリーなどで紹介されにくい若いアーティストたちにスポットを当てるという意味では、確かにこの街の今後の可能性を見せているともいえるが、定義もテーマも無いままに集められた作家たちだけでは、見る者はまさに混沌に包みこまれるのみである。可能性は強力な意義付けや方向付けが無ければ、いつまでたっても現実的な力を持たず、ただエネルギーを放出するばかりで、何も生み出さないだろう。ここには「現在」を映し出す混沌はあろうとも、ベルリンの現代アートを囲む閉塞した状況を打破する、そして現代アートが本来見せることができるはずの「未来」は無かったように思えてしまう。

本展覧会が大きく波紋を立て、ネット上での抗議活動があったことは先に触れたが、ベルリンに住む多くのアーティストが求めていたものは明らかに「現在」ではなく「未来」であった。なぜなら当地では以前から現代アートの作品を展示する常設の展示施設・クンストハーレ(美術館)を求める声が根強くあったのだ。今回の企画に関連して、その場限りの展示ではなく、常設の展示スペースを建てる声は高まりを見せ、企画者側は批判に応える形で、「ベースド・イン・ベルリン」をクンストハーレの今後を話し合う一つの場として機能させることを目指していた。しかし実際に展示で感じられたのは混沌とした「現在」のみ。アートに関わるベルリンの一市民としては、この街にはやはり「未来」が必要と思えてならない。

Based in Berlin(ベースド・イン・ベルリン)
会期:2011年6月8日(水)〜7月24日(日)
キュレーター:アンジェリク・コンポン、フレディ・フィシュリ、マグダレーナ・マギーラヤーコブ・シリンガー、スコット・キャメロン・ヴィーバー
展示会場: アトリエハウス・モンビジュパーク、ハンブルガー・バンホフ美術館、KW(クンスト・ヴェルケ)、ベルニッシュ・ギャラリー、n.b.k. (ノイアー・ベルリーナー・クンストフェアアイン)
入場無料
https://www.basedinberlin.com

Text: Kiyohide Hayashi

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