NIKE 公式オンラインストア

「ベースド・イン・ベルリン」展

HAPPENINGText: Kiyohide Hayashi

まずは「多様性」というベルリンにおいては非常に重要な概念において、幾人か気になったアーティストを挙げてみたい。

スウェーデン人アーティスト、エリク・ブンゲルはユーモラスな映像作品「宇宙人」を出品している。彼の作品は有名俳優ウディ・アレンが数秒おきに吹き替えの言語が変わるなか、ただひたすら多言語で話し続けるものだが、吹き替えの声のトーンなどは多彩であり、声から受け取れるイメージも大きく変わる。国によってウディ・アレンに対するイメージの相違を表すと同時に、メディアが作り出すオリジナルとは異なるイメージの存在を指し示す。ベルリンという街を鑑みれば、一つの都市に多様な国籍の人々が住み、多様な価値観が並存していることをも再考させられる作品と言えよう。

7650_1.jpg
Kajsa Dahlberg: Ein Zimmer fur sich / Ein eigenes Zimmer / Ein Zimmer fur sich allein / Vierhundertdreiunddreissig Bibliotheken, 2011, based in Berlin 2011 Photo: Amin Akhtar

1973年生まれのスウェーデン人アーティスト、カイサ・ダールベルグは、展覧会場の廊下に本棚を設置し、全く同じ本を棚に並べている。ここに飾られた本は岩波文庫のモデルともいわれるレクラム文庫を模したもので、多くのページには無数の書き込みやアンダーラインが書き込まれている。本は20世紀初頭の女流作家ヴァージニア・ウルフの著作「A Room of One’s Own」(自分だけの部屋)をコピーしたものであり、無数の書き込は読者が本に直接書き込んだもので、作者はそれをベルリン中の図書館から集めて一冊の本に集約した。実際に手に取り読むこともできるこの本からは、一つの対象に対する多様な観点が集められ、一つのメディアとしての本から多様な考えを生み出すことができる可能性をも提示している。

トルコ・イスタンブール出身のクェーケン・エルグンは、スクリーンを3面使用した映像作品で文化の変容を映し出している。ベルリンでは多くのトルコ人移民が住んでいるが、彼らの生活は伝統から離れ、新しい特殊な文化を生み出している。映像の対象となっているのはベルリンに住むトルコ人たちの結婚式。アーティストは40組を超える彼らの結婚式を取材して一つの映像作品を生み出した。映像では華やかな結婚式のなか参列者がダンスに興じる姿を捉えているが、一方では親族や友人が会場の中心に呼び集められて、ご祝儀として現金を支払うところを、また同時に会場の出席者に対して提供者の名前と支払い金額をアナウンスする様子も映し出し、結婚式という華やかな儀式の最中に行われる世俗的なやり取りを生々しく見せている。これは従来ある新しい家族を援助するための贈与の儀式が、他の文化に触れ独自の変化を遂げた姿を表していたといえよう。現代化する儀式の姿は、同時に文化の発展の光と影を映し出しているのかもしれない。

上記の作品3点には共通点がある。ドイツ以外の国で生まれたアーティストの作品であること。また多様性のあり方を反映していることである。ここベルリンには180カ国からなる44万人の外国人が住み、彼らのベルリン全人口に占める割合は10パーセントを超えている。上記のアーティストも同じくベルリンにおいては外国人であり、この街で文化の多様性を享受している。ここでは多数の文化があり、そして当地で交わり新たな文化を生み出しつつある。しかし一方で多様性は国籍にのみ裏打ちされるわけではない。個々の考えを持つ個々人に起因し、また同時に全体を構成する構成要素として共存していると言えよう。これはグローバリゼーションという世界的な一極化へと向かう流れに対して、個々のアイデンティーのあり方など考えさせる新たな視座を与えてくれるのではないだろうか。

続きを読む ...

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
スティーヴン・チータム
MoMA STORE