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白井剛

PEOPLEText: Fumi Hirota

すごく感覚的な話になりますが、モノの存在感を実感するときは、その環境全体に関わる、ある種の事件が起きている感じがします。重たいモノがあれば、空間が歪む、時間が歪むといった相対性理論にも関わることなのですが、私たちは、日常においても、ダンスにおいても、それを十分感じているように思います。自身とモノとの関係、モノとモノとの関係は、互いが静止していても、その間は、決して止まっていない、常に動きがあるのではないかと。モノを触る、持つといった動作を考えてみても、何かの存在感を感じ、距離を測り、そこを抜ける、それに届かせる感覚が生まれると思うのです。質量感や存在感と同時に、モノと身体との関係よって生じる、「ある種の事件」が、この作品では題材になっています。

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白井 剛「質量, slide ,& .」(2004) photo: Toshihiro Shimizu

ダンス作品「質量, slide ,& .」を映像作品に再構成したわけですが、ダンスと映像という異なる表現形態については、それぞれ、どのように感じていますか?

やはり、舞台で表現する人は、映像にされるのを嫌がる場合も多くあると思います。その感覚は、僕自身にもあります。やはり、ライブで見ないと分からない、伝わらないことも多いし、ただ単純に、自分で自分の姿を見たり、自分で自分の声を聞いたりすると、気持ち悪い感じもありますよね。だから、ダンスを記録され、それを見られるということにも、抵抗をもってしまうのです。それは、ひとつの言い訳かもしれませんけど…(笑)。でも、舞台表現には、舞台なりのメソッドがそこにある。観客の前で踊るのと、誰もいないリハーサルスタジオで踊ることには、やはり違いも出てきます。ダンサーや演出家は、観客がいて、生の時間のなかで、距離や移動などを構成しています。例えば、観客に近づくのか、引いていくのか、どこまで近づいて振り返ると印象的なのかなど、空間の中での経験上の勘を頼りに作品をつくっています。やはり、そういうのは、映像では伝わらないのですよね。
ただ、同じように、映像じゃないと伝えられないこともあります。その違いをちゃんと理解して、映像だから伝わること、その方法を、振付家やダンサーが経験的に学んでいかないと、良い映像作品はできないんじゃないかと思うのです。舞台をそのまま収録したものだったら、生で見た方が、やはり面白い。舞台を映像にするときに、撮影する人だけでなく、振付家自身も、映像だったら何が伝わるのかを勘として知っていかないと発展しないと思うのです。そこを勉強していきたいとずっと思っていました。

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「質量, slide ,& . in frames」(2011、YCAM委嘱作品)

映像作品「質量, slide ,& . in frames」では、出演とともに、実際に撮影や編集、加工なども手掛けられてますが、映像表現はこれまでもされている、もしくは、興味があったかなど、教えてください。

映像制作は、舞台で使うものを含め、これまでにも経験がありました。ダンスを始めたのと、映像を制作し始めたのは、ほぼ同時期です。ビデオカメラが普及した頃には、ハンディカムで、自分の踊りやほかのダンサー、風景なんかも撮影し、ざくざくつくるということを繰り返していました。当時は、そういうのが流行っていたし、そういう発想が生まれていた時期でもあります。同時に、DVDの普及などで、優れた映像作品を見ることができるようになりました。そうなってくると、映像作品をつくろうと撮影してみたところで、自分でできる範囲のクオリティには、すでに満足できなくなっていました。新鮮味を感じなくなっていたんですよね。
でも、マイケル・ジャクソンの没後、昔のPVが大量に放映されたとき、漠然と「ダンスを映像で見る」ということを大きく意識しました。自分のダンスを始めたきっかけに、中学校や高校生の頃にテレビの深夜番組で見ていた映像が影響していることも思い出しました。亡くなった後に、その姿を見ることができるという点でも、「映像で見る」ことの貴重さを改めて感じる出来事でした。他にも、現在はYouTubeで、フォーサイスやピナ・バウシュまで様々な映像に出会えますよね。以前より、映像を介していろんな情報に触れる機会が増えたし、偏った情報だけでなく、受け手が自ら情報を選択できる。そして、意識せずに、たまたま影響力のある情報に出会える可能性も大きくなっている。そうした環境を考えたとき、自分の映像作品をつくりたい、残したい、という思いは、常々大きくなっていきました。

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