第6回 ベルリン・ビエンナーレ

HAPPENINGText: Yoshito Maeoka

個人的にとても印象的だったのは、参加アーティストの出自が国籍としてキャプションやカタログに明記されていないことだった。たしかにダン・ヴォーやオルガ・チェルニーシェヴァといったアーティストは、ベトナム、中近東で生まれ、様々な場所で生活し、むしろそれが作品を成立させる為の重要な要素でさえもあった。今日の人々の活動領域が国境をまたぐ事が常態化している認識を示していたのではないだろうか。また「国際色豊かな」他のビエンナーレに対する“アートの外”にある現実からのメッセージだとも思えた。

それはそれとして、この展覧会全体を振り返ってみると、「outside/draußen」(外)、とは何だったのだろうか、その様な疑問が起こる。アートがどのように現実を描写して来たか、その様なテーマであったにせよ、巨大なグループ展の性格上この答えはとても多義的に成らざるを得ない側面は否定できない。近年の大型展覧会の傾向とはいえ、参加作品の1/3〜1/4が映像作品である。

第4回第5回と、私が見てきたベルリン・ビエンナーレは、何らかの形で展覧会の背景となるベルリンという都市への言及があったが、ハンス・シャウブスなど一部のアーティストの作品を除いて、今回はむしろ直接の言及を避けているかのようだった。いわんやアートの言及する世界に集中することにより、ベルリンの現実を展覧会というアート空間から外すのが意図なのかとも思えた。

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プレスカンファレンス

プレスカンファレンスやオープニングでは、今回のビエンナーレの中心となったクロイツベルク地区や地域の関心と、それに駆けつけたアートジャーナリストや観客らの微妙な温度差が、“外”と内との微妙な境界線を描いている様にも思えた。その他、外で実際起きている数々のデモ行進や、ワールドカップの熱狂を他所に、鑑賞者は熱斜光のさし込む展覧会場でじっと佇んで多くのビデオアートを鑑賞する事を強いられていた。

この展覧会で示されたものは、それとも少し浮世離れした街ベルリンへの警鐘なのか。作品の指し示す“外”と現実のベルリンの街の熱とのあまりのギャップに、自分の立ち位置をも再点検しなければ行けない様な気にもなってきた。

第6回 ベルリン・ビエンナーレ
会期:2010年6月11日〜8月8日
会場:KW Institute for Contemporary Art他、ベルリン市内
https://www.berlinbiennale.de

Text: Yoshito Maeoka
Photos: Yoshito Maeoka

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