小山泰介

PEOPLEText: Mariko Takei

このシリーズも「entropix」と同じように街を歩いて撮影していますが、表面にシールの破片のようなものがついていたり、傷がついていたり、それらの影が落ちていたり、雨上がりには結露した水滴によって虹のグラフィックを構成する印刷の網点がレンズを通して見たときのように拡大されていたり、様々な状況や現象が写っています。
このシリーズは「entropix」の延長であり、光や現象、物事が写真化される事についての作品でもあります。

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Untitled (Starry 10) / 2009 / From the series of “Starry”

「Starry」(2009年)は、あるマンションのエントランスに作品を設置するというコミッションワークで製作したものです。半永久的に設置される作品であるため、その場所と関わりがあるもの、そして居住者のコミュニケーションのきっかけとなるものを製作しようと思いました。リサーチしたところ、街の外れにとても古い天文台があることを思い出し、同時に、2008年に出版した写真集「entropix」の中に、道端に捨てられたスクーターのフロントカウルが星のように輝いて見える作品がある事を思い出しました。

そこでその写真を参照して、光が当たると星のように輝く素材を作り、晴れた日に太陽光で撮影して“星のように見えて星ではない写真”を製作しました。「Starry」では色とりどりの星が輝いているように見えますが、それらは全て真昼の太陽光を反射して輝いている光です。

このプロジェクトでは、作品を設置することによって居住者が星のことを考えたり、家族のコミュニケーションが生まれたり、ひょっとしたら天文台へ行くきっかけになればいいなと思っていたので、“実際の星ではないが星のように見えてしまう写真”ということが重要でした。

この作品の製作を通して、写真とそれを見るヒトの知覚の関係や、ストレートフォトとセットアップフォトの違いなどについて、より深く関心を持つようになりました。「Starry」を見て『これは南十字星を撮ったのですか?』と言った人がいたのですが、それを聞いた時に、人は写真を現実にあったものとして見ようとするということ、そして写真を見る人にとっては、その写真が自然に撮られたものなのか作られたものなのかということよりも、その写真に対峙したときに立ち上がってくる感覚や想像力の方が重要なのではないかと考えました。

同時に、これまで僕が都市の中の自然として撮ってきたものも、ただの自然現象ではなく、僕が立ち会わなかった時間、僕が出合わなかった誰かの存在や行動が強く影響した、都市と自然の関係性の中から発生したものだということを改めて自覚しました。

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Untitled (Melt 01 / No Smoking) / 2006 / From the series of “entropix”

写真集「entropix」に入っている「Untitled (Melt 01 / No Smoking)」のような、街に貼られたポスターのインクが溶け出した様子などを、僕は都市の中の自然現象として撮ってきましたが、そういった事象が起こるのは雨や光のような自然の力だけではなく、ポスターを印刷したり貼ったりした人の存在があったからだということを再認識したんです。

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Untitled (Melting Rainbows 36) / 2010 / From the series of “Melting Rainbows”

そういった関心から生まれた作品が最新作「Melting Rainbows」(2010年)です。
この作品では今まで撮影する時にしか見られなかった現象をじっくり観察するために、「Rainbow Form」のインクジェットプリントをポスターのようにベランダに設置し、雨や雪などによって変化していく様子を撮りました。街に貼られたポスターを印刷したり貼ったりした人の存在を自分で担当しつつ、雨や雪などの力を借りてプリントを変化させました。自然に撮られたものでも科学的な観察写真でもないという状態が重要だと考えていたので、 撮影は街で撮る時と同じようにフィジカルな反射神経や直感を大事にしました。

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