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エリック・ボシック

PEOPLEText: Bonnie Oeni

鉄男 THE BULLET MAN」への主演、おめでとうございます。この作品に惹かれた理由は何ですか?

ありがとうございます。私はずっとカルト映画、ホラー、ファンタジー、SF映画の大ファンでした。「ジャンル・フィルム」とも呼ばれているものです。塚本晋也監督はそういった作品の監督の中でも、私が最も好きな監督の一人でした。だから彼が制作中の最新作に外国人の俳優を探しているという電話をもらったとき、本当にやりたいと思いました。

最初はほとんど何も聞かされていなかったので、正直に言うと、ほんの小さな役だろうと思っていたのです。なぜなら私は、日本の映画は普通日本の俳優のために作られていると思い込んでいたからです。オーディションに万全に備えることが大切だと思ったので、私はオーディションのために30~40時間を費やして準備をしました。オーディションは2種類でした。2つ目はカメラテストで、その時に初めてこのオーディションは「鉄男」を、あの世界的な映画のアイコンであり、映画の歴史に輝く真の金字塔を演じる役者を選ぶものだ、と教えられたのです。それから、鉄男という役の偉大さが私を襲いました。なぜなら、鉄男は今までもこれからもずっと、日本映画の歴史の中で語られ続けるであろう存在だからです。

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© TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009

一人の男が悪魔の化身に変わるという、ファンタジー的な要素もこの役にはあります。私には3~4年間舞踏を学んだ経験があります。舞踏とは、グロテスクな身体の動きを含むダンスの一種です。私には、この作品に生かすことができるバックグラウンドがあると感じました。

しかし鉄男を演じるなんて、宝くじに当たるほどありえない事に感じられました。可能性はおそらく宝くじの当選確率と同じ、5億6千万分の1ぐらいでしょう。あの世界的に有名な映画監督が、あの有名な作品を外国人の俳優で撮るなんて、そしてその主役を自分が演じるなんて、とても信じられませんでした。考えたこともなかった事です。

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© TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009

これまでの「鉄男」は全て、日本人キャストによって日本語で演じられてきました。その映画に、あなたはどのような変化を起こしたとお考えですか?

一人の外国人として、私はまるで本当に宝くじに当たったような気分でした。しかし、ある記者が以前私にこう言ったのです。『違うよ。君のような俳優を見つける事ができて、宝くじに当たったのは塚本監督の方だ。』と。私が演じたアンソニーは、日本人とアメリカ人のハーフで、生まれてからずっと東京で暮らしてきた人物です。ご存知の通り、日本に住む外国人は普通それほど日本文化に順応しようとはしません。彼らは英語で働ける環境で、英語でできる仕事をします。そして、彼らは彼らの社会に生きています。

私はいつも、日本文化に自分を浸しきることに興味を持ってきました。長い時間を費やして神道や仏教を研究しましたし、とても日本的な暮らし方をしています。日本食も大好きです。日本人のクライアントには、私は日本語で話します。だから日本文化は時を経て私の中に浸透しているのです。私の事を、日本人よりも日本人らしいと言う人もいます。アメリカを訪れると、あまりの文化の違いに途方に暮れてしまいます。おそらくそれは、私がシンガポールというアジアで育ったからという事もあるでしょう。そこで日本に文化的に順応する方法を学んだのです。アメリカには、「故郷とは、魂が帰るところにある」という諺があります。そして私の魂は東京にあります。東京が私の故郷なのです。

だから塚本監督との仕事の中でも、私が日本語を話せるので彼は自分の考えを説明することができたのです。これはハリウッドから来た別の俳優だったらできなかった事でしょう。なぜなら、例えば「いただきます」という言葉にも表れているように、日本語には、日本語の中にしかない独自の精神が根付いているからです。そして私の「舞踏」というバックグラウンド。舞踏は、一人の人間から悪魔的で神がかった存在へと姿を変えるために、特別な身体性が要求されるものです。加えて私は、塚本監督の作品にとても親しんでいました。こういった私の全ての要素が、この役に適していたのです。だから最初は私にとっての信じがたい幸運だと思っていたのですが、彼らスタッフも同じように幸運だったと言えるでしょう。

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