アイラン・カン展「内なる本棚」

HAPPENINGText: mina

企画展タイトルにある「内なる本棚」は、本棚を持つ人それぞれの知の体系が、文化的なアイデンティティを表現している、という考えから設定されたテーマとなっている。メイン会場に入った一番最初の作品は、今回、日本的なタイトルも用意されていて、日本の現代アートや鉄腕アトム、紫式部日記などの他に、イタリアのボッティチェリやジェフ・ウォールなどの作品集が並ぶ。また今回、印象派の本が多くセレクトされているのは、彼女が展示会場に足を運びインスピレーションを受けた中でのアクションだったようだ。本の装丁は実際にある本の装丁の一部を拡大縮小して着色し、自分でアレンジしてるという。

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Photo: Sotaro Yamamoto © Airan Kang, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

当初光る本のオブジェを展示することから始まったプロジェクトは、やがて、本という一方的に著者から読者に与えられるもの、読まれるだけのものというような存在物を何とか双方向的な、読むだけじゃなく視覚、触覚的な音声などを使用し空間全体を本の空間としたいと考えるように至る。作家曰く「ヘテロトピア的空間」だ。そして今回の企画展の中心作品、「Light, The Tempest, One, Touch」のようなミラーハウスの展示を開始する。すでに昨年韓国とドイツで発表され、今年その進化版がクレマチスの丘で発表された。半透明に製作された二重的構造を持つミラーハウスの内外から文学と芸術を味わえる作品となっている。

ミラーハウスでは用意された5冊の本から好きな一冊を選び、中に入る。表紙に手を置いて中の壁に近づくとセンサーが反応し、その手にしている本の内容が文字としてミラーハウスの壁面に投影され、それが半透明ミラーによりミラーハウスの外界へも表示される仕組みの体験型作品となっている。風景の画像や文字が投影され、ミラーハウスの4壁面全てに異なるバージョンで本の内容が投影される。取材当時はジョン・ミルトンの『失楽園』の叙事詩が投影された。光や崇高性をテーマに設定しセレクトされたそうだ。

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Photo: Sotaro Yamamoto © Airan Kang, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

最後の作品は三面鏡貼りの合わせ鏡で、無限鏡の部屋の中にある本棚だ。永遠に続く鏡の中に脳神経システムの一端子かのような本棚に並ぶ光る本たちが輝き続ける。その空間はまさに多元的な空間だ。ハウルの動く城、エンペラーヒロヒト、川端康成などの日本の本と世界の本、120冊以上のタイトルが並ぶ。アイラン・カンはこのように、鏡を使って空間を複雑にするような作品を多くつくっている。

アイラン・カンがデジタル的なイメージで本を取り上げるのは、テクノロジーが加速度的に発展し本の将来に疑問を感じたことを示唆するものだ。本のカタチを見直しながら、加速化するテクノロジーの進化がもたらす文化について、改めて考えてみたいという意味が込められているのだろう。

アイラン・カンー内なる本棚
会期:2010年2月20日〜5月9日
会場:ヴァンジ彫刻庭園美術館
住所:静岡県長泉町東野クレマチスの丘(スルガ平)347-1
TEL:055-989-8787(代表)
https://www.vangi-museum.jp

Text: mina

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ステファン・マークス
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