アンテ・ヴォジュノヴィック

PEOPLEText: mina

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「ERECTION」

どんな時にクリエイションの歓びを感じますか?

普通、クリエイターは「私はこれをつくる。僕はこれをつくる」というのがあると思うのですが、自分の場合には何でも良くて、何か見たことのないものをつくるということに歓びを感じます。常に誰かのためにではなく、まず自分のためにものをつくっている。これも多分子供の頃、一人で何か手で小さなものをつくった時にすごく歓びと達成感があり、その気持ちが今までずっと続いてきているからだと思います。子供の頃はそんなことは考えもしないでただ発見が嬉しかったですし、学生ぐらいになると完成したものに対してもう少しこうした方がいいかなと、少しだけ考えが作品に入り込んでくる。さらに大人になって恋人ができたりすると、この恋人を驚かせたい!そういったモチベーションで制作の優先順位が高くなったりもします。一緒にいる人が本当に喜んでくれたら、こんな動機付けになるものはないですね。

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「TANGO VARIATIONS」

作品をつくられる時、同時に美しい道具が沢山つくられるそうですね。

例えば、ここにマジックがささっていて、ちょうどその高さで水平の線を引くためのものであったりします。こういうものは探しにいけば売っているものです。でも買ったら2万円くらいします。「タンゴ」では小さな木の板のくり抜かれた部分に樹脂を流し込み、何パターンもの椅子のラインで模型をつくりました。僕が何かものをつくる時、何でも存在するものを道具屋に行って買ってくるよりも、こうやって何か自分で工夫して道具のようなものをつくることが好きなのです。ここからクリエイションが始まってると思うからです。

アンテの部屋には白いベッド、白いテーブル、白いキャビネットしかない。シンプルで、ある意味空っぽな白い空間だ。だけど、多くの人が忘れたくないものを写真に収めるように、キャビネットの上にはアンテの忘れられない記憶の断片がそっと置かれていた。アンテの手でつくり出されたその模型の空間には、ギリシャに住んでいた時のベッドルームとモーリタニアの砂漠の家が再現されている。「大きく窓を開けると、ベッドの天蓋の布が大きくふわっとはためくんだ」。多くは語らないけれど、アンテの作品の中には光がある。それは目に見えない光もあれば、可視化され私たちの網膜にその映像を結ぶこともある。人が生きるということ、日々の記憶や体験ということの中に潜む光を、アンテは柔軟な思考とイマジネーションで立体にしていく。
帰り際、「解放することが大事なんだよ」と世界の秘密をアンテが教えてくれた。

Text: mina

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