リヨン・ビエンナーレ 2009

HAPPENINGText: Kana Sunayama

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mounir fatmi – Ghosting, 2009

最後に「もうひとつの世界は可能である」。
ムニール・ファトミのコピー機を占拠するかのように垂らされた黒く長い髪の毛のようなビデオテープや、陽江グループによるエキゾチックなサッカー賭博場のインスタレーションのように、それがたとえユートピアと呼ばれるものであったとしても、 現実社会をある視点から批判しながら、新しい社会秩序を持った世界を想像する可能性を与えてくれる作品がこのチャプターで展示されていた。

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Yangjiang Group – The Pine Garden-As Fierce As A Tiger, 2009

8ヶ月という超短期間での企画にも関わらず、60名近くのアーティストが招待され、半数以上の作品がこのビエンナーレとその展示サイトのために制作された。日常で発見するスペクタクルという発想に基づき、ホウ・ハンルウは現実生活とアートとの関係性に着眼し、ブルジョワジーの街としてのリヨンとその移民の多さや治安の悪さで有名な郊外の街と、このビエンナーレをリンクさせるために、アーティストたちに住民の生活の輪に入り込んでの創作を全面に押し出した。

フランスのアート界やメディアからは、「頭で見るアートばかりで目に訴えかけてくるものではない」「社会的モラルに即した作品ばかり」「社会の変化に対しての客観性と奥深い思考が足りない」などと叩かれることが多かった今回のビエンナーレであるが、リヨン・ビエンナーレの特徴とも言える、「中心」と「周縁」のアート、グローバリゼーションの中で境界線が良い意味でうやむやになってきている現代アーティストたちの位置や社会との関わり方などがホウ・ハンルウの観点でうまく引き出されていた。

彼自身が言及するように、「展覧会というものは目標ではない。多種多様なアイディアや論争が大衆に発表される舞台であるべきだ。」と考えるならば、このビエンナーレは偽善的で単純すぎると言われようが、その唯一無二の目的を果たしたことになるのではないだろうか。

第10回リヨン・ビエンナーレ
会期:2009年9月17日〜2010年1月3日
会場:リヨン現代美術館、スゥクリエール、ブルキアン財団、ビシャ倉庫跡
https://www.biennaledelyon.com

Text: Kana Sunayama
Photos: Kana Sunayama

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