オーストリアン・グリーン・ファッション

PEOPLEText: Daniel Kalt

エコがファッションの王道となり、スローライフが暮らしの定番となり、サスティナブルなものがスタンダードになる。少なくともそれが私たちの理想だ。消費者のこうした新しい生き方は、ファッションの領域にも影響を与えている。

最近頻繁に耳にするフレーズ「green is the new black(エコはファッションの新定番)」は、意識の高いファッションエディターたちの間で繰り返し引用され、そのブームで既に新鮮な響きを失いつつある。しかしグリーンでサスティナブルなファッションの勢いはまだ止まらない。単なるブームに終わらない発展の可能性を秘めたこの分野に、ますます多くのデザイナーやブランドたちが参入を続けている。

より明確な事実を求めるなら、バラク・オバマ大統領のグリーン・ニューディール政策に基づく再生可能エネルギーによる経済成長促進へのイニシアチブが、不況にピリオドを打つことになればよい例となるだろう。よい行いで新しいビジネスモデルを発展させようという挑戦は、自動車業界だけでなくファッション業界にも世界規模で起きているのだ。そこでウィーンのファッション業界でこの数年に飛躍的に発展した成功例をたどってみよう。
日本オーストリア交流年2009を機会に、SHIFTとAUSTRIANFASHION.NETのコラボレーションによるレビューをお届けする。

kontiki_rotor.jpg
kontiki © kontiki/Karin Maislinger

kontiki(コンティキ)
グリーン・ファッションの領域はカテゴリーを超えるほど広い。この分野に共通するのは、環境的にも社会的にもサスティナブルであること。カリン・マイスリンガーのブランド「コンティキ」は、最近国際的に大きな注目を集めており、ニューヨークで開催された国際ハンドバッグデザイナー・アワードのグリーンファッション部門でファイナリストにも選ばれた。コンティキの成功の軌跡は2003年にはじまる。カリンが自転車のチューブを再利用して制作したバッグや財布のライン「アクアティック・シリーズ」が大好評を博したのだ。多様な形やスタイルのこのシリーズは、美しくかつサスティナブルなものを求めていた人々を魅了した。2009年にはリサイクル素材やオーガニックレザーでできた洋服やバッグの新ラインナップ「ベジタブル・ワードローブ」を立ち上げる予定。

GDG_sports1.jpgGDG_women1.jpg
Göttin des Glücks © Göttin des Glücks/Bledl, Muhr, Sapic, Stoytcheva

Göttin des Glücks(ゲッティン・デ・グリュックス)
その名前からだけでは分かりづらいが、「ゲッティン・デ・グリュックス(恍惚の女神)」はスタイルと、上品さと、そして幸福を一度にもらたしてくれるブランド。2005年にオーストリアとクロアチアとブルガリアのデザイナーが仲間内で始めたこのブランドはおそらく今やウィーンでもっとも有名なグリーンファッションブランドのひとつに成長したといえよう。新進デザイナー、モニカ・ブレドル、リサ・ムール、イゴール・サピックそしてデッシ・ストイチェヴァはこのブランドを確かなものに築き上げた。グリーンでサスティナブルなファッションの重要なポイントのひとつは、スピードを落とすということ。規模を広げすぎたり、生産ペースを速めすぎたりすることは環境にやさしくという目標を困難にする。そこでゲッティン・デ・グリュックスのデザイナーたちは、モーリシャス島にある工場で働く雇用者にフェアな労働環境を与えている。彼らの願いは、心地よくデザインされた製品に包まれて着る人が幸せな気持ちになってくれることである。

MILCH_2Hosenkleider-Bund_elvira_faltermeier.jpg
Milch © Milch/Cloed Priscilla Baumgartner, photos Elvira Faltermeier

Milch(ミルヒ)
ミルヒ(ミルク)のデザイナー、クロード・プリシラ・バウムゲルトナーは1998年にこのブランドを立ち上げた。「森林伐採と不要な布の生産をなくそう」という明確な目標のもと、彼女は10年以上に渡ってリサイクル素材を用いての制作を進めてきた。ミルヒの象徴的な作品に、メンズのトラウザーやシャツ、ジャケット、ベストなどから仕立てた女性服がある。デザイナーがこれらの素材を組み合わせ作り替えることで着る者がひと目で心打たれるような全く新しい形状を生み出した製品だ。しかしこれこそが、リサイクルファッションの神髄なのである。形と洋服の脱構築と再構築によって、表現とクロスリファレンスが重なり合うポストモダン的文脈の中へと着る人そのものを刻み付ける。ミルヒの個性は、確固たる自信を持ってこうしたファッションの相互作用を世界に向けて提唱するところにある。

ALILA2.jpg
Alila © Alila/Barbara Lindnder

Alila(アリラ)
アリラはこの日本オーストリア交流年2009の企画にぴったりな、とても興味深いブランド。アリラ(サンスクリット語で「驚き」)を立ち上げたデザイナーのバーバラ・リンドナーは日本の着物や帯、また1930年代から1980年代の着物の絹を使って、「最高級リサイクル製品」という独自のアプローチを試みる。限られた数で展開されるコレクションにはスカートや特別な日のクラッチバッグなどがあり、サスティナブルなファッションを好む人々やオーストリアに数多く存在する日本文化の愛好家たちを惹き付けてやまない。

Text: Daniel Kalt
Translation: Shiori Saito

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
アレックス・ヴェルヘスト
MoMA STORE