ツェ・スーメイ

PEOPLEText: Mariko Takei, Yurie Hatano

音楽と映像を合わせた作品を多く手がけているそうですが、音楽を作品に取り入れることへの興味はどのように発展したのですか?いくつかの代表作についてお話して下さい。

スーメイ・ツェ
Su-Mei Tse, Chambre sourde (Anechoic Room), 2003, Installation, Courtesy of Peter Blum Chelsea, New York & Cameraphoto Arte © Su-Mei Tse

「Chambre sourde」(チェンバー・スード)は、すぐに見る者を音と身体の環境の変化にいざなう。省略符号のように、この空間は、訪問者と外の世界を遮断し、沈黙と内省の時間をもたらす。音や音楽について話す前に、スーメイ・ツェは、沈黙の意味についてなげかけている。

スーメイ・ツェ
Su-Mei Tse, Das wohltemperierte Klavier, 2001, Video still © Su-Mei Tse

ツェは、習慣的に楽器を用いてそれらをビジュアル表現として内在化し、変容させる。ビデオインスタレーション作品である「Das wohltemperierte Kavier」(平均律クラヴィーア)は、包帯に巻かれた指がピアノを弾くのをクローズアップした映像であり、音楽やアートを習得するための長いプロセスを象徴している。包帯にまかれた手という極端なビジュアル・イメージは、ツェが「完璧な古典的理想」と「自己追求への信仰」の間で揺れ動く様をうまく表現している。バッハの音楽や複雑さや厳格さ、洗練さと比べると、この両手は、アーティストの遠い道のりの心理的風景を描く秀逸なメタファーになっている。

スーメイ・ツェ
Su-Mei Tse, L’écho, 2003, Video still, Courtesy of Peter Blum Chelsea, New York © Su-Mei Tse

ツェ・スーメイの多くの作品に使われる音響と音楽は、彼女の音楽教育と関連しているかもしれない。「L’écho」(レコ)は、2003年のベニス国際ビエンナーレのルクセンブルグ・パビリオンで他の作品とともに展示された。この時、アーティストはベスト・ナショナル・パティシペーションの金獅子賞を受賞した。本作は、ランドスケープの音響的特徴に音楽的伝統を対峙させている。ビデオ・プロジェクションでは、渓谷のへりで、アルプス山脈をとりかこむ天空にむかってチェロを演奏するアーティスト自身を投影する。エコー、ヨーデルの伝統、呼びかけと応答の歌のパターン、シンプルなメロディの旋律とそれへの応答、といった様々な音が、それぞれの違いを曖昧にしながら共振し、音とその土地との文化的関係について考えさせるきっかけになっている。見る人に背中をむけ、牧歌的な山の風景に圧倒される彼女の姿を通して、ツェは同時代的な崇高さというものを成り立たせることに成功している。さらに、チェロのリズミカルな音やそれに風景の静的な応答が、人間と自然のより共感的な関係性を示している。これが特に明白なのが、サウンドトラックの反響を異なって応答させることで、あらかじめ想定された従属的な役割を超えて表現することを可能にして、自分自身のアイデンティティや個性を成り立たせているところである。(ジム・ドロブニック・アウラル・カルチャーズ2004)。

スーメイ・ツェ
Su-Mei Tse, La marionnette, 1999, Video sculpture, Courtesy of the artist & Beaumontpublic, Luxembourg © Su-Mei Tse

どのような芸術の学生も、ある程度の完成度を求めるならば、肉体に課される厳しく確立された要求に従わなければならない。「La marionnette」(マリオネット)というビデオの中で、スーメイ・ツェはチェロを演奏しているように見えるが、彼女の動きを妨げる縄にくくりつけられている。この作品の編集過程で、彼女は間違ったところだけを残し、彼女のパペットのような動きは、新しい、脱臼した、ほとんどパロディのようなリズムをつくりだしている。ここでアーティストは、ユーモアをもって「”偉大な芸術”と正しくも呼ばれるものの裏の学習過程への厳格な服従は、必要悪なのだろうか?」という疑問を呈している。

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