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アート・バーゼル 2008

HAPPENINGText: Kana Sunayama

これらのセクションにギャラリーは練りに練った企画を提示してくるが、そこはやはりバーゼル。何十倍もの倍率が待っているのである。
ではなぜそこまでして審査を受け、そのうえブース代から美術運送費、かさむ人件費と宿泊費、また馬鹿にならないスイスの税金までも支払って、ギャラリストたちはバーゼルを目指すのだろうか。
答えは簡単だ。どんなに経費がかさんでも、それを取り戻せるくらい、他のアートフェアでは売れないような価格の作品がどんどん売れるのだ。

例をいくつか挙げてみよう。アート・アンリミテッドの会場のカフェに居座った村上隆の巨大な銀色の仏陀は800万ユーロ(約13億円)でニューヨークとパリを拠点にするアートアドバイザーの手に渡り、アクアヴェッラのブースに展示されていたルシアン・フルードの作品は一億二千万ドル(約12億円)で、またマールボロー・ギャラリーのフランシス・ベーコンによる絵画3部作は8千万ドル(約8億円)で購入された。

アメリカの不景気とドル安により、アート市場も元気がなくなるのかと懸念されたが、相変わらずコンテンポラリー・アートのオークションハウスは売買価格の記録を更新し続けている上、今回のバーゼルでも、去年のようなヴェネツィアビエンナーレとドクメンタ、そしてミュンスターで展示されていた作品たちが、自分たちのものにならないのにいらいらしたアメリカ人コレクターが、バーゼルというアートのデパートにやってきて、手当たり次第に買っていったような状況ではないにしても、ヨーロッパ、ロシア、中国、中近東諸国からのコレクターたちがじっくりとしかし着実に購入していった。それは205機もの自家用ジェット機がこのフェア期間中にバーゼル空港に降り立ったということにも反映されている。

アート・バーゼルを「世界一の現代アートフェア」にのしあげた元ディレクター、サミュエル・ケラーがバイエラー財団の館長に就任し、今年2008年から後継者となったディレクター3名のうちの一人である、ケイ・ソフィー・ラビノヴィッツがフェア開催1ヶ月前にして辞職するなど、ただでさえこれまでのフェアのクオリティー維持が懸念されていた今回のアート・バーゼル。最終的には去年を上回る6万人もの来場者を数えた。それは上記のような辞職劇を経験しながらも、アート・バーゼルの良い意味での保守主義を受け継いだ二人のディレクター、マーク・スピーグラーとアネット・ショーンホルツァーの手腕によるものだ。その流行に流されないクオリティーは、近年目立っている中国現代アーティストたちの、 作品の良し悪しとは関係なく、ただ毛沢東の顔を描いただけで、 オークションで破格の高値をたたき出している絵画がフェア会場で全く見当たらなかったことでも分かる。作家が、中国人であろうと、韓国人であろうと、日本人であろうと、ロシア人であろうと、イスラエル人であろうと、それぞれ現代美術としての面白いもの、作品として高いレベルに達しているものだけが展示されていた。流行のものだけを紹介しがちな他の現代アートフェアが増えているなかで、その点にもこのフェアのすごさを見たのだった。

Art Basel 2008
会期:2008年6月4日〜8日
会場:メッセ・バーゼル
住所:Messeplatz, 4058, Basel, Switzerland
https://www.artbasel.com

Text: Kana Sunayama
Photos: Kana Sunayama

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