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フランソワ・ピノー・コレクション展「時間の通路」

HAPPENINGText: Kana Sunayama

まずこの展覧会で私たちが驚くのは、個人のコレクションによって「美術史」を見せるという試みである。そしてまた、最終的に選ばれた39名のアーティストによる96点の作品のひとつひとつが持つレベルの高さである。

今回の写真とビデオのコレクション展で、ビジターがどうしてもさけては通れない作品がある。

フランソワ・ピノー・コレクション展
Dan Flavin, “Untitled (to Saskia, Sixtina, Thordis.)”, 1973 © Adagp, Paris 2007

304本のネオンを使ったダン・フラヴィンの作品は50メートルの長さにわたって、フランソワ・ピノー・コレクションの胎内に入るためのトンネルのような役割をする。ピンクや緑、黄色のネオンが輝く青色に広がる空間を通りながら、私たちは、写真やビデオに映される被写体になったような気分になるのだ。そしてこのトンネルは、フランス北部特有の曇りと雨の多い工業都市に立つ元郵便物集配所の中に入って行くという感覚を私たちから消し去り、6000平米にもおよぶ現代アートの不思議な世界に突入していくのだという興奮をもり立ててくれる。

フランソワ・ピノー・コレクション展
Rosemarie Trockel, “Untitled”, 1993-2002

そしてその興奮は、これでもか、これでもか、と私たちに挑戦するかのように、次々と目の前に現れてくる作品群によってますます増長されていく。

上記のダン・フレイヴィンの作品で第一章「めまい」の幕が開き、それから会場の3階にわたって他の5つの章が展開される。

第二章は、アーティストとは一体どのような存在なのか、を模索する70年代のシンディー・シャーマン、ヴィト・アコンチ、ブルース・ナウマン、ダン・グラハムの作品たち。ここに展示されていたマルセル・ブロータースの「Une seconde d’eternite」ほど美しい作品を私は見たことがない。

フランソワ・ピノー・コレクション展
Gilbert & George, “Blood Tears Spunk Piss”, 1996

それから、これらのアーティストの思いを継承しながらもユーモアを加えたものに変化させて作品を発表するピエール&ジルや、フィシュリ&ヴァイス。ギルバート&ジョージの写真では、彼らが頻繁に用いる要素、裸体、血、涙、精液、尿の全てがここまでひとつの作品で見ることができるのも珍しいのではないだろうか。

ビデオアート作品に大きな影響を与えるものの一つとして映画が挙げられるが、映画のシーンを利用した作品も集められた。「タクシー・ドライバー」の中でロバート・デニーロが一人で話しているシーンを両横に設置した二つの大画面で、すこしだけ時間的にずらして何度も反復させる、ダグラス・ゴードンの「Through a Looking Glass」。また映画「サイコ」でのシャワーシーンの恐怖と興奮を、浴室とシャワーから流れる水、そして無数のカメラによるビデオインスタレーションでよみがえらせたポール・ファイファーの「Self-Portrait as a Fountain」。他にはロドニー・グラハムやピエール・ユイグの作品など、映画を用いるという共通点だけではなく、展覧会のタイトルにもある「時間」のずれ、反復、進行などによって、私たちを不安定な気分にさせる作品選びがされていた。

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