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フェイス・ハンター

PEOPLEText: Arisa Kobayashi

声を掛けた全ての人の写真を載せることはない。彼の見た物と写真としてみるものはたまに違っているからだ。たとえ女の子から『今日の私の写真がポストされるのをすごく楽しみにしているわ!』とメールが来て、彼女を泣かせる事になってしまったとしても、彼が納得できないものがフェイス・ハンターに載ることはない。失望させてしまうような写真を載せるよりは載せないほうがまし。彼は完璧主義者なのだ。だからこそ彼の生み出した写真はフェイス・ハンターの心地良いベッドで穏やかに眠っているだけでなく、時に音をたてGQやELLEやCosmopolitan、アメリカ、デンマーク、フランス、チリ、イギリス、スウェーデン、ドイツ、日本…世界中の雑誌へと羽ばたくことができる。

Face Hunter

フェイス・ハンターを更新し終わると彼は「フェイス・ブック」に今日のポストについてのコメントを残した。一目見ただけで、彼が摩訶不思議な能力を持っているであろうことに、誰もが気づかされる。『写真の彼女が笑わないからといって責めてはいけない。喫煙禁止令の導入により人々はバーでタバコを吸うのをやめ、お酒を飲むのをやめ、そして笑うことまでしなくなってしまった。僕は悲しくなんてない。どうして幸せがいつもなければいけないんだ?あなたはそんなにも、ちいさなテレタビーズに支配され、フレンドリーすぎるアンチ不幸せを叫ぶお巡りさん達に守られ、鬱病のキュウリまでもが読み書き、それから絵を描くこと、気をなだめたりダンスしたり、振舞い方や犬小屋の掃除を手伝ってくれる、素晴らしいケチャップでハートが書かれたような夢の島に住むことがしたいのだろうか。それは果たしてあなたの人生を楽にすることにつながるのだろうか。』

Face Hunter

チックハビットの鼻歌が聞こえたならそれはイヴァンに違いない。たとえ熱があろうとも彼は毎晩出かける。彼の家の前のストリートを毎日何人ものファッショ二スタ達が通る。だからそれを逃さぬように部屋の窓に自動カメラがついていたらどんなに楽だろうとジョークを言った。でも、もしもそんな物があったとしても彼は信じたりしないだろう。彼が信じるのは自分の能力だけだ。『朝も夜のファッション、どちらも好きなんだ。全く違う表情を見せるから。たとえ一時間でもいい。僕は出掛けるよ』そんな事をいいながら睡眠時間を削ってまでもクラブをはしごしては写真を撮り続けるイヴァン。2〜6時間の睡眠の夢の中でまでも仕事を続けているに違いないということは言わなくても誰もが想像できるだろう。 

Face Hunter

彼は自分の仕事がタフだということを認めた。一日に何人のターゲットを見つけることができるかわからないからだ。多いときもあればそうでないときもある。いつも簡単というわけではない。いつもがチャレンジ。そんな言葉に従うように常に新しいことに向かう彼の後ろには今、TVクルーがいる。フェイス・ハンターのドキュメンタリーを作成するためだ。TVに加え、展示会も行っている。10月、パリのコレットで行われた彼の初めての展覧会は大成功のうちに幕を閉じた。12月にはベルリンのエクスクルーシブ・ビンテージ・ブックストアー「La Robe」初であり、イヴァンがソロとして始めての展覧会が待ち構えている。これは彼の写真の良い物だけを集めたコレットの展示とは違い、もっとビンテージテイストなものになる。いつも新しいことに挑戦することでクリエイティブになれると彼は語る。

写真やファッションにバッググラウンドもなく両親がアーティストであるわけでもない。ただマーケティングと創造の融合に心躍らせ、コピーライターや広告に関する仕事をしていた彼がどうして毎日100通ものラブコールを受けるそんなストリート・フォトグラファーになったのか?今世界でもっとも気になる疑問だ。人々はその答えを知りたくて、フェイス・ハンター熱を出し、温暖化に拍車をかけている。早く止めなければ。『僕はただスペシャルな人間にインスパイアされてるだけ。ナチュラルに起こったことなんだよ。』努力という文字を知らない、白馬に乗った王子様のように彼はさらっとそう答えた。

でも彼の一日を見た私は言える。そんなに簡単なことではない。クールで穏やかな彼の外見からは想像もできない努力で彼ができている事を知った。あの有名な発明家が「天才とは1%の才能と99%の努力」という言葉を残したが、イヴァン・ロディックはその言葉が本当によく似合う。もちろん彼の才能が欠けているわけではない。誰が他の国に旅行してまでも言い訳なしにブログを更新し、むしろその毎日続けるというプレッシャーを心地よいと感じられるのか。誰が毎日一生懸命働いた後に外に出かけ、世界中から届くメールに返信するために朝早く起きることができるのか。誰が心のそこから自分の仕事を愛し、一日中考えていられるのか。誰が毎日新しい事に挑戦しているから創造力を失うことは絶対にないと自身を持って言えるのか。 誰が『フェイス・ハンターを人生のパートナーとし、健やかなる時も病めるときも、愛し続けることを誓います。死が二人を別つまで…。』なんて誓うことができるのだろうか。イヴァン・ロディック、彼一人だけに違いない。

2007年12月14日から2008年1月13日にかけて、ベルリンのラ・ローブにて「フェイス・ハンター」展が行われる予定。

Text: Arisa Kobayashi
Photos: Courtesy of © Yvan Rodic (Facehunter)

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