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フェイス・ハンター

PEOPLEText: Arisa Kobayashi

急に会話が途切れた。横に目をやると隣にいるはずのイヴァンが消えている。ビンテージストアーの入り口ですれ違った昆虫セーターを着こなした男の子の元へ瞬間移動していた。マジシャンにだまされて、きょとんと立ちすくような感覚に陥る。ただ綿あめのようにやわらかい、普段の彼の目からは想像もできない鋭く研ぎ澄まされたその目を、信じることができないだろう。彼はどんな時でも常にソナーとファッションレーダーを張り巡らし息つく暇もない。どんなにおかしな話をして笑い転げていようとも、クラブの人だかりに飲み込まれ足元さえ見えない時や、アルコールを飲んで世界が180度変わったりキスをしたりしている時も。黒猫にしか見えないそんな暗闇の中でさえ、彼には全てが見えており気付くと彼は声をかけ写真を撮っている。

Face Hunter

ファッション、背景、天気、光、全てを考え彼の理想の条件に当てはまった時だけ写真は撮られる。それはまるで一種の化学反応のようだ。何かと何かが組み合わさるとミラクルが起こる。でも例えファッションが良かったとしても、他の何かがだめだったとしたら爆発がおこる。小さなころに化学者になる事を夢見ていたイヴァンは前者しか好まない。『僕はただ服の写真をとっているわけじゃない。僕は人のパーソナリィティまでもを撮っているんだ。多くのストリート写真家たちがやっているのは、あぁこのファッションがいいからとかドレスがいいからって撮るけど、僕はそんなことは絶対にしない。僕はその人のカリスマとかユニークさに惹かれる。その選んだ人にとってベストな場所を見つけて、最後にはその人とバックグラウンド、全てが見えるような写真を生み出す。服だけじゃつまらないと思うんだよ。グローバルブランドが横行しているこの世の中で、パーソナルスタイルを確立している人を見せることはとっても面白いことでしょう。クローンになることはとっても簡単だからね。』

Face Hunter

イヴァンがデジタルカメラの銃口をターゲットに向けたとたん、彼らは自然と体をくねらせ彼に艶やかな表情を見せた。イヴァンは彼のモデルにほんのたまにだけ、高く小さな小鳥しか乗ることのできないような、ポールの上に乗ってくれ、などというとんでもない事を頼んだりする。でもそれ以外は彼の好きなシンプルなオランダ人写真家リネケ・ダイクストラの写真から学んだ考えにより、自然に任せることがほとんどだ。『ポーズとスナップショットの中間という感じ。ナチュラルでありながらポーズをとったような』

Face Hunter

普通ストリートフォトグラファーは一人につき2、3枚の写真を撮って止める。イヴァンがフェイス・ハンターを始めたころにそうしていたように。イヴァンはもうそんな事はしない。10枚から15枚、彼の納得の行くまで一人の人を撮り続ける。『初めはシャイだったし、人のことを邪魔しているんじゃないかって思ったよ。だけど、それからして、うーんもう一枚撮らせてもらおうかな、この写真はよくなかったけど、もうちょっと撮らせてもらっていたなら、もっとインタレスティングだったにちがいない。一生懸命やるうちに、自然と進歩していった感じだね。最初は娯楽のための写真だったから、ぼやけているし悪いよ。別にそんなほかの人から見られるなんて考えてもいなかった。個人的なことだと思っていたからね。それから、スウェーデンやアメリカの人たちが自分のしていることに目を向けていることに気づいたんだ。雑誌とかが僕のことを書いて、そのたびに僕はもっともっとやるようになった。プレッシャーがかかればかかるほど一生懸命に。』

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3時間をかけて3週程ブリックレーンを回った後、今日のハンティングは終わった。さぁ、彼のMacで今日の獲物を料理する時が来た。彼の写真は大変に目の細かい篩にかけられる。彼の見せたいものが見えているのか。ナチュラルか。スマイルかそうじゃないか。靴は?影は?… 彼がたった5枚の写真を載せるために一時間以上もの時間をかけた事を想像できただろうか。長いストーリーが彼の写真にはあるのだ。その一時間を楽しむように彼は音楽を聞いていた。サブウェィのサンドイッチの中からキューカンバーを弾き出す時以外、激しい好き嫌いはしない。クラッシック音楽ですら彼の想像を掻き立てる原動力となる。

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