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第52回 ヴェネツィア・ビエンナーレ

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かわって、アルセナーレでの展示は、「破壊」「開発」「カオス」「宗教」「紛争」などの言葉に頭を占領されるようなものであった。そしてそれらの頭にこだましている言葉は最終的に全て「生と死」というものにつながっていく。イタリアン・パビリオンでの展示作品が欧米中心の20世紀までの現代美術だとするならば、 アルセナーレでの展示作品はアーティストの出身地の多様性なども含め、現代美術界をよりグローバルに見渡したものであると言えるだろう。

第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ
Leon Ferrari


ドクメンタ12」でもドローイングが展示されていたレオン・フェラーリは、2005年ブエノス・アイレスでの展覧会で「過激すぎる」ということで、期間中に展示が中止されたという、戦闘機にキリストがはりつけられた作品を筆頭に、ドローイング、コラージュ、彫刻から構成されるインスタレーション空間を展開し、素晴らしい仕上がりを見せた。第52回ヴェネツィア・ビエンナーレの優秀賞である金獅子賞を獲得したのも納得である。

第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ
Gabriele Basilico. Beirut, 1991. 9 fotografie / 9 pictures. Pure pigmented print.
Courtesy dell’artista e Studio Guenzani, Milano

イト・バラーダとガブリエル・バジリコの作品はいつも通り完成度が高く、人間が無意識に創りだす「廃墟」というものをそれぞれ別の視点から見せてくれる写真であった。しかしその他の写真作品は、紛争や現代社会の悲惨を見せるただの報道写真のようなものが多く「写真というアート」とは何かを考えさせられ、展示自体も少し中だるみをする。

第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ
Paolo Canevari. Bouncing Skull, 2007

そんななか私たちが出会うのは パオロ・カネバリの「Bouncing Skull」という映像作品である。爆弾によって半分に削られてしまったベルグラードの建物の前で、ひとりの男の子が汚いボールで遊んでいる。しかしよく見てみると、そのボールだと思っていたものは人間の頭蓋骨なのである。彼はたった一人で一心に、まるで何かにとり憑かれたかのようにその頭蓋骨を蹴り上げ、受け止め、転がし、踏みつける。

作品が見せようとしているものを発見した瞬間に、はっとさせられたもうひとつの作品としては、ヤン・ジェンジョンの「I Will Die」が挙げられる。

第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ
Yang Zhenzhong. People of different ages and status make the statement, “I will die”

1スクリーン1カ国、全10国の街中でアーティストが構えるカメラを前に、それぞれの国の言葉で「私は死にます。」とだけ言う映像。欧米人がまるでセリフを言うかのようにニコニコしながら最初から最後まで笑顔で演じきってこの言葉を言えば、東欧人は淡々とカメラの奥の奥、よって観客である私たちの心の奥の奥を見据えるかのようにこの言葉を発し、私たち日本人はこの言葉を言ったあと、時にはカメラから眼を離してしまうほどいたたまれない様子を見せ、この言葉と自身の心の底で向かい合う。

第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ
Jan Christiaan Braun. Happy Together: New York & The Other World, #45. 2006.
Stampa laser n. 45 di una serie di 150 / Laser print. No. 45 from the series of 150

この映像作品の横にジャン・クリスチャン・ブラウンの、アメリカ合衆国の墓地で、母の日や父の日、ハロウィーンやバレンタインデイの際に、もうこの世を去ってしまった人たちも一緒に楽しんで欲しいという思いなのか派手なデコレーションをした数々のお墓の写真があった。デコレーションも写真の色彩もグロテスクで、でもどこか幼くて憎めないような、こちらの世界にいる人々のあちらの世界にいる近親への深い思いが伝わってくるような作品群であった。

フランツ・ヴェストやタチアナ・トゥルーブなどの造形的美しさを求めた作品たちのなかでも、フランシス・アリスの「Bolero」はため息が出るほど素晴らしかった。511枚に及ぶドローイングと、これらのドローイングが創りだす9分22秒の間演奏を替えて繰り返される靴磨きのアニメーション。くるくると流れる靴磨きのヴィデオも人生の一瞬を表しているのであれば、壁を埋め尽くすトレーシングペーパーに描かれた511枚のドローイングのすべて異なる瞬間も、人生の一瞬を表しているのだ。

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