ヨアヒム・シュミット展

HAPPENINGText: Yoshihiro Kanematsu

二つの展示に共通する視点は明白だ。アマチュアによる写真、あるいは名も無き写真家による写真が大量にあって、エディターやキュレーターの手によって、それぞれの写真は現像されるに至ったストーリーとはまったく違った新たな意味が与えられたのである。そこには選んだ人のトーンが滲み出る。時にはバックグラウンドの違いから理解しがたいパロディもあるが、分かる感じと分からない感じも含めて、私たちは発見を楽しむ。

話がそれるが、毎年「TIME」誌では、一年の締めくくりとして「今年の顔」が表紙を飾る。2004年はブッシュ大統領、2005年はビル・ゲイツ夫妻とボノ(U2)と、言わずと知れたビッグネームが続いた。そして昨年の表紙は、ミラー加工されたPCスクリーンと「YOU」の文字。もっとも世界に影響を与えた2006年の顔は、鏡に映ったパソコンの前の「あなた」というものだった。

かつてないスケールのグローバルなコミュニティと能動的なコラボレーション、TIMEは昨年の出来事をそうまとめている。いわゆる「WEB 2.0」的なテクノロジーによって、みんなが繋がるフラットな世界に僕たちは生きているのだ。そこでは誰もが何かをアップロードでき、すぐさまそれを共有する。ブログを書いたり、FlickrやYouTubeに写真や動画を投稿すれば、「あなた」は既にオーディエンスのいる表現者だ。こうして言うまでも無く、アマチュアとプロフェッショナルの垣根が大きく揺さぶられているのが今である。Googleでイメージ検索をすれば、瞬時にピンからキリまでヒットする。デジタルの時代に、イメージとの関わり方がいよいよ劇的に変わってきたのだ。

ギャラリーの話に戻ろう。ここでは無数の「あなた」が存在していた。それでも作品として鑑賞するならば、美しいものもあれば、そうでないものもあった。テクストは美をフィクションで補うものの、圧倒されるほどの美しさには巡りあえなかった、というのも本音ではある。ただ名のあるフォトグラファー不在の展示は、“写真” そのものの変化を爽快に示唆していた。

時代の気分とともに、写真を鑑賞すること、ひいては写真との距離感も変わっていく。やがて「あなた」が写真を撮るときに、豊かなフィードバックがやってくるだろう。過去のリミックスが価値を増幅する中で、飛び抜けた強さをもつ美しさは、その先の変動から生まれるはずである。

ヨアヒム・シュミット展
会期:2007年4月20日〜6月17日
会場:The Photographers’ Gallery
住所:5 & 8 Great Newport Street, London WC2H 7HY
TEL:+44 (0)20 7831 1772
info@photonet.org.uk
https://www.photonet.org.uk

Text: Yoshihiro Kanematsu
Photos: Yoshihiro Kanematsu

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