「ディス・ランド・イズ・マイ・ランド」展

HAPPENINGText: Yoshito Maeoka

奥に進むと、カティンカ・ボックはインタビュー形式のドキュメンタリービデオを展示していた。彼は、ドイツで生まれ育ちヨーロッパで教育を受けトルコに戻った14人に質問を投げかけていた。質問の対象者は “再移民” した形となる。彼らに向けられた質問はに始まりドイツとトルコでの生活の違い、自由さの違いに至るまで様々だったが、そこで浮かび上がるのはドイツ人としてでもなく、トルコ人としてでもない、一個人としての葛藤だった。


Katinka Bock

ハルーン・ファロッキは、ドイツにおける雑誌や新聞にはじまり、語学の教科書、移民局のパンフレットなどの紙のメディアにあらわれる移民の図像を収めた映像作品を展示していた。そこには主に鞄や、髭、時にはヒジャブを巻いた女性が示されていた。これらの図像は、決してポーランドやイタリア、デンマークからではなく、トルコや中東から来ている、そのようにステロタイプとして理解されているという現状が良く分かる。


Shahram Entekhabi

シャーラム・エンテクハビの作品も同じような構造を持つ。彼の今回のインスタレーションには、鞄やターバン、軍服だけでなく、石油タンク、銃、手榴弾など中東のイメージに結びつくものが、電球に囲まれた大きな鏡のある衣装部屋の様な部屋のロッカーに並べられていた。それはあたかも観客にそのイメージを身にまとう事を要請するかのようだった。


Falk Haberkorn and Sven Johne

ファルク・ハベルコルン、スヴェン・ヨーネの共作も興味深かった。タイトルを「購買力と故郷感」と題し、壁一面に新聞記事を貼り詰めていた。見出しを少し拾ってみると、「若き男がSPDに加入」「ドイツの市場は定員オーバー」その一方で「ガチョウのごちそうがお買い得」といった見出しや出会い系個人広告が顔を出していたりする。記事ひとつひとつに目を通して行くと、皮肉なまでにドイツという国や郷土に対してポジティブなイメージに彩られている事が分かる。

その他様々な視点を持った、国と個人のアイデンティティにまつわる作品がこの展覧会には並べられていた。時として、国とは何かを語る事があったが、EUという新たな共同体を前にして、国家という枠組みがこうも脆く、そして罪深い存在であるということをつくづく感じさせられた。

This Land Is My Land
会期:2006年10月28日〜12月3日
会場:NGBK
住所:25 Oranienstrasse, 10999 Berlin
TEL:+49 (0)30 616 513
https://ngbk.de

Text: Yoshito Maeoka
Photos: Yoshito Maeoka

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